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最終章・小さな命。(1)
(六)
――心地良い。アマデウスは安らぎの中にいた。そっと息を吸い込めば、ムスクの香りが鼻孔から入ってくる。こんなに穏やかな気持ちになるのは久しぶりだ。
昨夜はいったいどれほどライオネルに求められただろう。身体だけではなく心さえもあんなに求められたのは生まれて初めてだった。力強い腕がアマデウスを包み込み、すすり泣く自分を宥めるために口づけを寄越してくれた。彼との口づけは言いようのないくらい完璧だ。吐き出される吐息さえも飲み込まれてしまう。
アマデウスは甘い余韻に浸り、ほうっと息を吐いた。
「ライオネル……」
彼の名を呼ぶ唇は勝手に弧を描く。手を伸ばし、そこにいるだろうライオネルを求めればーーしかしアマデウスが求めた強靱な肉体もぬくもりもなかった。
アマデウスははっとして目を開ける。そこにはやはりともいうべきか、目の前には彼の姿がなかった。
「……そんな」
アマデウスは頭打ちを食らった。まるで冷水を浴びせられたかのようだ。ただただ空になったベッドの端を見つめた。
昨夜、愛おしいと言ってくれたのは、あれは嘘だったのだろうか。彼は自分を淫魔としてしか見ておらず、彼自身が太陽の下でも活動できるよう利用するために抱いたというのか。
愛していると言ってくれたあの言葉も――。包み込んでくれた力強い腕のぬくもりも――。昨夜のことはすべてアマデウスを抱くための口実だったのだろうか。
(――いいや、そんな筈はない。だって昨日のぼくを見るライオネルの目は欲望だけじゃなかった……)
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