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最終章・対決。(1)

 (七)  舞う風に合わせてコートの裾が棚引く。背には大剣を背負い、腰のホルダーにはリボルバーと長剣を装備する。分厚いブーツには隠しナイフを忍ばせてある。黒装束に身を包んだライオネル・フォンテーンは太陽光が燦々(さんさん)と注がれている大都市に降り立っていた。  象牙色の肌は照り付く太陽の下でも焼け爛れることは愚か、ひりつきもしない。どうやら妹のコルベルが言っていたことは本当だったらしい。アマデウスを抱いたことで力は漲り、太陽の熱さえも何も感じない。  ああ、しかし彼のことを少しでも考えるだけで胸が痛む。彼は人間界に連れて来なかったことを怒っているだろうか。また自分は騙されたのだと思い込み、悲しんでいるだろうか。――そう思われても仕方ない行動をしたのも事実だ。しかし、ライオネルの本音は違った。昨夜告げた愛に嘘偽りはない。彼をーーアマデウスを愛しているからこそ、悪魔城に置いてきたのだ。  彼ほどの器量なら、こんな紛い物よりもずっといい伴侶を見つけられることだろう。彼がライオネルに溺れているのはベルゼブルという性悪な男に引っかかってしまった直後だからだ。ほんの少しでも優しい言葉をかけられれば相手が何者だろうと誰だってなびく。それがたとえ、どんなに愚かなヴァンパイアだとしても――だ。  彼さえ自分の魅力に気が付けば、誰彼構わず虜にできる。ベッドの上で頬を薔薇色に染め上げ、赤い唇が愛していると告げる。そしてあの魅惑的な肢体を開くのだ。

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