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最終章・白昼夢。(1)
(九)
――ここはいったいどこだろう。声が聞こえた。男の子だ。複数いる。
ライオネルが閉じた目蓋をそっと開けると、まだ一〇歳にも満たないだろう三人の男の子たちが笑い声を上げて白い柱を中心にグルグル駆け回っている姿が見えた。波打つブロンドの少年は悪戯っ子のようだ。見るからに知的そうなダークブラウンの子の本を取ったのだろう、その子は手を伸ばしている。けれども彼も楽しんでいるようだ。二人は笑い声を上げながら走り回っている。そしてもうひとり。肩まであるブロンドを後ろでひとつに束ねている男の子は二人の仲間に入ろうと後を追う。
ライオネルが彼らのやり取りをじっと見つめていると、腕白ざかりの彼らはこちらに存在に気が付いたらしい。ライオネルが横になっているベッドへと駆け寄って来た。みな、ライオネルに向かって無邪気に笑いかけている。後ろ手に束ねたブロンドの男の子がライオネルの膝の上に乗る。すると残りの二人も抱きついてきた。三つだった笑い声は四つに纏まる。周囲をあたたかな雰囲気へといっそう変えていく。
なんと心地好い夢だろう。
ゆったりとした気持ちになって目を閉ざせば、細い指がライオネルの頬を滑った。この繊細な指先は知っている。愛おしいアマデウスのものだ……。
「ライオネル、お願い。目を覚まして――」
彼の声に耳を傾けた時だった。彼は目を開けた。
天井が見える。星屑が描かれた天井だ。
「ライオネル、目を覚ましたのか?」
赤い目 が潤んでいる。さっきまで泣いていたのだろう彼の姿が目に入った。
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