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最終章・白昼夢。(3)
(ああ、神よ……)
ライオネルの胸がいっぱいになった。喉の奥から熱いものが込み上げてくる。アマデウスの腹の子はおそらく三つ子だ。ふたりはブロンド。そしてもうひとりはダークブロンドの、しかも三人とも元気な男の子だろう。ライオネルは確信した。
「ライオネル、ぼく、ぼくは……貴方の傍にいたい。身籠もってしまったけれど結婚が嫌なら――愛人でも――本当は嫌だけれど、でも貴方がそれを望むのなら――」
アマデウスは静かに口を開いた。彼の頬には先ほどの赤みはない。あるのは深い悲しみばかりだ。涙袋に溜まった雫がはらりと頬を滑り落ちた。
――さて、彼はなんと言っただろうか。自分の傍にいるためなら愛人でも構わないと、そう口にしたのではないか。
ああ、なんということだろう。彼は一度ならず二度までも瀕死の醜い化け物 にその身を捧げただけではなく、ライオネルの気持ちに添うよう、こうして健気に尽くしてくれようとしている。そこまでして自分を想ってくれている。彼の想いを知れば知るほど、愛おしさが増す。
ライオネルはアマデウスが抱く深い慕情を知った。胸の痛みが押し寄せてくる。ライオネルはその息苦しさに小さく唸った。
ライオネルがアマデウスのことを愛していないと思ったのはおそらく、彼を戦場に連れて行かなかったことが原因だろう。――それもそうだ。なにせ彼を抱いた直後に姿をくらませたのだ。不安になるのも仕方がない話だ。
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