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最終章・夜明け。(1)

 (十)  翌日、ライオネルは白のチュニックに同じく白のスラックスを着て大広間がある下の庭に来るよう、ニヴィアに命じられた。  おそらくはグリゴリ教とアザゼル教皇。そしてベルゼブルの謀反を民衆に説明するつもりだろう。彼女の真剣な表情を見た瞬間にライオネルは悟った。  しかし、何故着る服の色まで決められねばならないのだろうか。いくら眉間に深い皺を刻んでも皆目検討もつかない。  ライオネルは考えるのを中断し、寝室を抜けて螺旋階段を下りて行く。大広間がある塔へと続く回廊に歩を進めれば、使用人や騎士達が道を開けていく。それぞれが隅に立ち、深々と頭を下げていく。  どうやらルジャウダ王はすっかりこの城の使用人達に説明済みらしい。この一件は思ったより早く片付きそうだと理解した。  そのまま階段を下りて行くと、下の庭に出る。  ここはニヴィア達家族が愛する薔薇園でもあった。薄桃色の美しい薔薇の花々がライオネルを出迎えてくれる。  柔らかな薔薇の香りが漂う中、見渡せばたくさんの人々が配列している。  この悪魔界に棲む悪魔は人間と違わぬ姿をしていた。ただ、頭に立派な牛の角や手に長く鋭い爪があるのは別として、ではあるが。それらの群衆の中にはコルベルと白猫シンクレアの姿も見えた。  石畳の上には色鮮やかなビロードが敷かれている。そして広い階段の最上部にある玉座にはニヴィアと王が闇夜の衣を身に纏い、座している。ライオネルの姿を目にすると彼らは立ち上がり、玉座から一歩、歩み出た。彼らの目には友好と信頼が見える。集う民衆らはライオネルが歩く道を開けていく……。

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