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最終章・夜明け。(3)

「おれは醜い化け物(ヴァンパイア)だ。アマデウスのような純血な悪魔ではない」  ライオネルは静かに首を振った。たしかに、ライオネルはアマデウスが子を孕めばきちんと責任を取るとも言った。その言葉に二言はない。  しかし、アマデウスはこの国の王子だ。しかるべき花婿をもってこの国を治めるのもまたいい。ライオネルは彼を愛しているからこそ、自由に生きて貰うつもりでいた。アマデウスを縛るつもりは毛頭なかった。  たとえ、自分の胸が引き裂かれるような痛みを訴えたとしても、だ。 「知ってる! でも貴方は醜い化け物なんかじゃない。ぼくにとって貴方は騎士だ。そして心優しい紳士でもある。愛してるんだ」  赤い目が涙で滲んでいる。ライオネルは小さく頭を振った。 「おれは君の涙に弱い。それはもう知っているだろう?」  この美しい青年には嘘もつけない。ライオネルは悟った。静かに立ち上がる。 「愛しているよ、アマデウス」  ライオネルは華奢なその腰を引き寄せた。ヴェールを後ろへ捲り、口づけを落とす。細い腕が首に巻き付く。アマデウスもつま先立ちになり、ライオネルの口づけに応えた。 「ここに平和が訪れた! 我が王子と花婿に盛大な拍手と歓声を……そして平和の角笛を轟かせよ!」  王は両手を掲げ、そう謳う。人々は拍手喝采し、喜んだ。 「ああ~、しあわせや~。うち、ずっとここにおってもええわ~」  白猫シンクレアはとても満足そうだ。またたびを抱えてゴロゴロと喉を鳴らした。あれほど天敵の悪魔の根城にやって来たと喚いていたことが嘘のようだ。

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