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最終章・夜明け。(4)
「シンクレアはぼくたちの密偵もしてくれるそうだ」
隣でくすくす笑うアマデウスは楽しそうだ。シンクレアの頭を撫でながらそう言った。
(餌付けされたか……)
ライオネルは静かに首を振った。
「兄さん、わたし、もっとここで色々な研究をしてみたいわ! ヴァンパイアのこともそうだけれど色々な種族に効く特効薬を作ってみたいの!」
流石は生物学者だ。コルベルははしばみ色の目を煌めかせ、鼻息を荒くしてそう言った。どうやら彼女達はここの生活にしごくご満悦のようだ。
「コルベルはグスタフ顔負けの学者だな」
ルジャウダ王は胸の前で拳を握り締めるコルベルに口元を緩めた。
「おれは……」
「人間界には帰さんぞ。婿殿。予は間もなく王の座を退く。其方には後を継いでもらいたい」
ライオネルの言葉を遮ったのはルジャウダ王だ。
「それはどういう……」
ライオネルが問うと、ふんと鼻息を荒くする。
「アマデウスの腹に子が宿っておることを知らぬと思うたか? アマデウスに問うぞ? お前を孕ませたのはライオネルであろう?」
アマデウスの頬が薔薇色に染まっている。アマデウスの表情を確認したルジャウダは大きく頷いて見せた。
「予は、今度こそ為し得なかったことをしてみたい。やがて生まれ来る孫をこの腕に抱きしめ、遊びたいのだ!」
「は?」
ルジャウダ王は果たして何を言っただろうか。彼の言葉に、ライオネルはなんとも間の抜けた声を上げた。
「遊び、たい?」
眉間に深い皺を寄せながらライオネルが尋ねれば、「わたくしもですわ」とニヴィアも大きく頷いた。
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