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epilog(1)
「ギデオン、グスタフ、ダグラス。あまり走り回ると怪我するぞ?」
薄桃色の薔薇園が咲き誇っている中で三人の王子達が所狭しと走り回っている。
彼らは声を上げ、高らかに笑い合っていた。そしてアマデウスが予言したとおり、襟足までのブロンドの王子の短い足先が小さな石に引っかかった。
べしゃりと大きな音を立てて、身体が突っ伏す。すると、いったいこの小さな身体のどこにそんな大声が出るのかというほどの耳を:劈 く泣き声が飛び出した。
「ほら、言った矢先から――」
アマデウスが言う間にも、彼は突っ伏したまま立ち上がらず、泣き止もうとしない。ほんのついさっきまであった笑い声が嘘のようだ。薔薇園から笑い声が消えた。
「あ、父上だ!」
波打つブロンドのギデオン王子が声を上げる。闇色の目が少し先に見える大広間へ続く入口を見た。
「ほんとうだ、父上だ!」
ダークブロンドのグスタフ王子も声を上げた。彼もギデオンと同じ方向を見ている。
「父上!」
二人は入口に立つその人物を見るなり駆けていく。
――ああ、彼はやはりハンサムだ。波打つ黒髪に漆黒のローブを身に纏ってもシルエットが隠せない、象牙色の逞しい肉体。アマデウスが何よりも好きなのが冴え渡ったブルームーンの目だ。どこまでも見透かしてしまいそうな済んだ目で見つめられれば身体は熱を帯び、たちまち縋りつきたくなる。雄々しく気高いこの悪魔界の王、ライオネル・フォンテーン。そしてアマデウスの宿縁。
アマデウスが彼に見惚れていると、今まで泣きべそをかいていたダグラスが押し黙った。口をへの字にしてむっくりと立ち上がる。アマデウスは勇敢な我が子の姿を見守った。
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