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番外編 花火大会は危機一髪?!1

今日は和己と二人で花火大会に行く約束をしてた。 あいつが人混みが激しいうえに暑い夏の夜にわざわざ出かけるなんてするはずないから、必死で頼み込んで"貸し"って感じでだけど。 別にそこまでしていきたいわけじゃなかったけど、やっぱり恋人同士だし、そういうイベント的なのも見てみたいなーとか思って。 それに、綺麗な花火を好きな人と一緒に見れるなんて……いいよななんて思ってしまったから貸しくらいどうってことない。 ――少し怖いけど。 そうして今日は待ちに待った花火大会の当日。 あえて待ち合わせにしてみた。 和己はすごく面倒くさそうだったけど。 そわそわしてる俺にちょうど夏休みってこともあって弟と家に帰ってきていた母親がデート?なんて聞いてきて、図星だったから頷いたら―――。 「……なんだその格好」 咥え煙草で片手をポケットに突っ込んで歩いてきた和己は私服姿だとまったく教師に見えない。 じろじろと俺の格好を眺める和己に頭を掻いた。 「いや……なんかお袋に無理やり着せられてさ」 今日デートならこれを着ていけと着せられたのは浴衣だった。 去年母方の祖母から作ってもらったもので、着るのは二度目なんだけど浴衣って妙に照れくさい。 「似合わないよな。恥ずかしいからいやだったんだけどさ」 浴衣を着てる男はたまに見かけるけど、自分が着るとなるとなんでこんなに気恥かしいんだろう? 情けなく顔が赤くなってる気がしたけど誤魔化すように笑って、 「行こうぜ」 と、人が大量に流れている方向へと足を向けた。 だけど何故か腕を掴まれて引き止められる。 「どうした?」 不思議に思って首を傾げると、和己は紫煙を吐きだしながらやっぱり俺をじろじろ見る。 なんだ、こいつ? 「啓」 「なんだよ」 「花火大会の最中に人目につかないとこでヤんのと、家でゆっくりヤんのと、どっちがいい」 「……」 ―――こいつ、いまなんて言った? ぷかぷかと煙草を吸ってる和己の言葉を認識するのにたっぷり10秒はかかった。 「はぁあ!?? なに言ってんだ!? お前?」 「そのまんまだろ。どこでヤりてぇのかって話だよ」 「いやだから意味わかんねーだろ! いまから花火見に行くんだぞ!?」 「花火見ながら青姦でいーんだな」 至極真面目な顔で言ってくる和己。 「……ど、どうしたんだ、お前」 もともと性欲つよいっつーか、本当に絶倫だとは思ってたけどいつも以上にねじが飛んでる気がする。 回りの人目を気にしながらも和己の顔を覗き込んで見れば、咥え煙草でにやりと和己は笑った。 「んな格好して、犯してくださいつってるようなもンだろ」 人目をまったく気にしてないらしい和己は手を伸ばして俺の首筋を一撫でしてくる。 「……ッ。……バカか!? なんだよ、それっ」 なんだこいつは!? なんで浴衣着てきただけてスイッチ入ってんだよ。 いつも以上にギラギラ感がある眼で、いまここで犯してもいいんだぞ、とでもいいそうなくらいのヤバさを感じる。 「俺、花火大会いきたいんだけど!」 「だから青姦でいーんだろ」 「よくねーよ!!」 冗談だろ、誰が、そ、外でなんかっ!! 「じゃ、帰るぞ」 「はぁ!? お前、俺に借りだぞっていって花火見に行く約束しただろーが!」 「その借りを返せ、いまから」 「……花火大会行ってねーのになんで借りが有効になってんだよ!」 「あー、面倒くせーなぁ。じゃあ俺の借りにしとけばいーだろ。おら、行くぞ」 「へ、お、おい!!」 ぐっと手首を掴まれて目的地とは逆方向へと和己に引っ張られる。 「おい、和己、俺は花火を!!」 「安心しろ。花火なんてどーでもヨクなるくらい、ヨクしてヤるから」 「……」 まったく悪びれもなくそんなことを言う和己に呆れまくるけど、通り過ぎたカップルがイチャイチャして、 「花火楽しみだねぇ」 なんて楽しそうに話を聞いたらなんかすっげぇムカついてきた。 「ふざけんなっ! 俺は花火見るっていったら見るんだよっ!!」 必死で和己の手を振りほどいて睨みつける。 「……ふぅん」 「……」 煙草をくわえたままニヤリ、と笑う和己の目は全然笑っていなくて背筋に冷たいものが伝ったけど、一度拒否したもんはしょうがない。 「お、俺が先に借りつくってでもって約束したんだからちゃんと守れよ!」 そこまで花火にこだわる必要もないっちゃない。 でも後には引けずにそう叫んだのだった。 じーっと見つめてくる和己の視線に怯みそうになるけど拳を握って耐える。 ほんの数秒の沈黙のあと和己が携帯を取り出し突然どこかに電話しだした。 「俺だ。ああ―――」 誰への電話か知らないけど、いかにも和己らしい口調にきっと親しい知り合いなんだろうことはわかった。 喋り出した和己は俺に背を向け数歩離れる。 なにか確認しているようだったけど内容までは聞こえてこない。 急にどうしたんだろう、と少しだけ不安を覚えながら電話が終わるのを待った。 行きかう人たちは楽しそうに花火大会に向かってるのに俺たちはなにしてるんだろう。 "借り"にしたところで和己が素直に動くはずない、って考えてみればそうな気もする。 思わずため息つきながらほの暗い青みがかった空を眺める。 三日月がぼんやりと浮かんでいて、これからどうなるのんだろうと考えていたら和己が戻ってきた。 「行くぞ」 「……え? あ、おいちょっと」 言うなり歩き出した和己が向かってるのはさっきまで行く気がなかったはずの花火大会の会場だ。 戸惑いながら肩を並べ、横顔を窺う。 「花火行くのか?」 「行きたいっつったのお前だろうが」 「……そうだけど」 エロスイッチ入っていたくせにどういう心境の変化だろう。 なにか裏があるんじゃないか――なんてことまで考えてしまう。 「花火見る場所は俺が指定するところで見るぞ」 「……うん?」 やっぱりなにか裏があるのか? 「そこってどこだよ」 「知り合いの持ちビルの屋上だ。花火大会会場近くにある。人混みの中で花火なんて見る気になれねー。そこなら人混みも避けれるし、お前も満足するくらい花火が綺麗に見れる」 「……へぇ」 会場近くのビルの屋上なら和己の言うようによく見えそうだ。 それに確かに人混みを避けれるのはいいかもしれない。 こいつがずっと大人しくしてるはずなんてないし、それに男同士でっていうのももちろんいるだろうけど、人目を気にしないでいいっていうのにも魅力を感じた。 ―――"人目がない"っていう状況がどういうことか……ってのをよく考えればわかるはずなのに俺は素直に頷いてしまっていた。 「あ、あのさ、そこに行く前に露店寄っていいんだよな」 「なんか食いもの買いてーからな、俺も」 会場近くにはずらりと露店が出ていてそこに行くのも楽しみのひとつだった。 男女のカップルみたいにきゃあきゃあ騒いだりはしないだろうけど、夏祭りの雰囲気を和己と一緒に味わいたい。 ちょっと乙女思考だろうか。 内心自分に苦笑しながらもつかず離れずの距離を保ち俺たちは足を進めていった。

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