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「……うぜぇ」 人の流れが増していって、動きづらいくらい混雑してきた。 露店はどこもみんな並んでいて買うのにも時間がかかりそうだ。 ぼそり呟いた和己はいらいらしてるのを隠そうともしてない。 「……な、なんか買おう。えっと和己、ビールとか? 飲むだろ? あとさ焼きそばとか買って行こう」 花火を見てくれることにしたんだし、機嫌良くいてもらいたいからご機嫌取りに笑顔を向ける。 ポケットに手を突っ込んで歩く和己は「ああ」とため息混じりに頷いた。 ビールはわりとすんなり買えて、焼きそばは少し並んで買えた。 それから――― 「これ買え」 「ジャンボフランクフルト……? 食べたいのか?」 足を止めた和己が妙にニヤニヤしながら言ってくるから不思議に思いながらも並ぶ。 「お前が食いたいんだろ?」 「……は?」 何だ一体。 和己の思考ってたまに意味不明だよな。 俺、フランクフルトが好きなんて言ったことあったかな、と考えているうちに順番が来て購入。 和己が俺の腕を引っ張って道路の端の方に連れていった。 「なに」 「食え」 と、すかさず買ったばかりでアツアツの妙にでかいフランクフルトを口に押し付けられる。 「ちょ、熱っ」 唇が熱かったけど、実は熱いのも平気で食べれる。 それにわりといい匂いがしてかぶりついた。 普通に食いついてパクっと食いちぎって食う。 「……つまんねぇな」 ニヤニヤから一転、言葉通り面白くなさそうな表情をした和己にもごもご口を動かしながら首を傾げる。 「何なんだよ、意味わかんねーな」 「お前はまだまだだな」 「だからなんだよ!」 別に食いたいわけでもなかったフランクフルトを無理やり食べさせられて文句つけられるなんて意味不明すぎる。 軽く睨むと和己はため息をつきながら俺から視線を逸らし、いきなり目を輝かせた。 「おい」 「なんだよ」 「あれくらいしろ」 「はぁ?」 和己が顎をしゃくる。 その視線の先を見れば男二人組がいた。 片方は甚平を来た俺と同じくらいの歳に見える高校生っぽい美少年といっていい男。 もう片方は浴衣を着た大人の男で、和己と正反対の優しそうな雰囲気を身にまとっている。 ふたりは俺たちと同じようにジャンボフランクフルトを食べていた。 和己が俺に食べさせたように甚平来た男の方が浴衣の男に食べさせてあげてる―――んだけど。 「っ……ん、あつ……っ。……ちょ、捺くん……これ大きい……っ、ん」 「……」 「……」 「……」 確かにフランクフルトはジャンボって名がつくだけあってデカかった。 それでもってかなり熱かった。 「……はぁ。ちょっと……っ、やっぱり無理かも……熱いし大きいし……っあつ…」 噛みきれないよ、と言葉は続くんだけど……。 「……」 「……」 「……」 俺も和己もそして甚平の男もジャンボフランクフルトを何回も口に咥えかけては熱さと大きさに眉を寄せて必死に頬張ろうとするけど顔をしかめて断念する浴衣の男に釘付け状態だ。 な、なんか妙に色気がある人だから余計に……っていうか、いやただフランクフルト食ってるだけなんだけど卑猥に見えるというか……。 「ゆ、優斗さんっ、俺もう無理!」 「は? え、なに?」 甚平男が前かがみになったかと思うと浴衣男の腕を引っ張ってどこかに走っていった。 「……」 「……」 「啓。お前もあれくらいしてみろ」 「……意味わからねーよ!!」 わかったけど、わかりたくなくて―――とりあえずフランクフルトはあとで食べることにした。 ……ていうかさっきの二人組ってもしかしてカップルだったりするんだろうか? もしそうならいいなぁ、って思うのは俺たちのように同性同士付き合ってても花火大会とか見に来ていいんだよなって変に安心したっていうか。 「おい、あとなに買うんだよ。ないなら行くぞ。ここじゃ煙草も吸えねぇし」 ぼんやりと消えていった二人組のほうを見ていたら、またイライラモードに戻ったらしい和己がせっついてきた。 慌てて、「必要か?」と呆れられながらもわたあめとたこ焼き、かき氷を買って露店が並ぶ通りをあとにした。

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