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それからビルの屋上に行った。
花火大会がある川からほんの数分にあったビルは5階建て。
それぞれの階に一店舗づつ入っているビルは誰もいないらしく真っ暗だ。
なんで持ってるのか和己は階段に入るための扉の鍵を開け、あっさりと上に進んでいく。
聞けば知り合いっていうのは親戚らしい。
電話したのは従兄らしく、二歳上だという従兄の話を聞きながら屋上に出た。
屋上は風が下よりも強く感じて涼しい。
賑わうざわめきも聞こえてきて隔離されてはいるけど花火大会の雰囲気は感じられた。
屋上にはとくにベンチとかなにもなかったからそのままコンクリの地面に座って買ってきたものを広げる。
和己はもうビールを開けていて、俺は来る途中に食べていたかき氷がもう溶けかけていたからそれを先に食べてしまった。
焼きそばに半分食べかけのフランクフルト、たこ焼き。
わたあめはあとで食べるからその三つを広げて箸をつけていった。
「もうそろそろかな」
文句を言うことなく大人しくビール飲んで食いものつまんでる和己に、花火が始まるとワクワクしながら笑顔を向ける。
「あー」
三本もビールを買っていた和己はたいして興味なさそうだけどこうして一緒にいてくれるだけで満足だ。
花火が上がる方向の空を眺め、あとどれくらいかなと心の中でひとりカウントダウン。
「―――おい」
「……え?」
「こっちこい」
ビール片手に和己が手招きする。
俺たちの間には焼きそばやらの空になった容器があって、人一人分離れていた。
「……」
「なんだよその間は」
ムッとしたように和己が睨んでくる。
「……いや、もうすぐ始まるし」
「お前、なに期待してんだ?」
「き、期待してなんかっ」
でもきっと和己のことだから触ってくるだろうとは思ったけど……。
「始まったらちゃんと見ていーから、来い」
「……わかったよ」
空の容器をビニール袋に突っ込んで、恐る恐る和己の傍に行く。
別に近づくのが嫌なわけじゃないんだけど―――。
「……っぁ」
口角を上げる和己と距離をつめたとたん腕を引っ張られ、口を塞がれた。
あっという間に侵入してきた舌。
アルコールの匂いが口の中に充満して、そして和己が好き勝手に俺の中を荒らして一気に頭が熱くなる。
だからちょっとだけ近づくのを躊躇ったんだ。
触れられたらすぐに夢中になってしまうから。
おずおずと和己の舌に触れたら絡みついてこられて、水音をわざと立てるように吸ったり甘噛みされたり貪られる。
息継ぐ暇もないくらいハイペースなキス。
これ以上続けてたらヤバイかも、と頭がぼーっとしてきたとき―――開幕を告げるような花火の音がひとつ上がった。
「ん……っ?」
花火大会が始まった、と思いながらキスに頭の中埋め尽くされてた。
けどあっさり舌が離れていった。
きょとんとして和己を見るとニヤニヤしながら、
「花火見るんだろ」
と、身体を離す。
「……み、見るよ」
もう少ししていたかったような……気もするけど、いまは花火だ。
俺のことを見透かすような和己の視線から顔を背け立ちあがって柵のとこに行って手すりにもたれかかった。
立て続けに大きい花火が重なるようにドンドンと上がっていく。
一斉に夜空がたくさんの色に染まって綺麗さに目を奪われテンションが上がった。
「すっげぇ……」
見惚れていると手すりにビール缶が置かれる。
和己も来たんだと振り返ろうとしたら背中から抱き締められた。
「な、なにっ」
「いーから花火見てろ」
「……っ」
背中から伝わる体温に緊張しながら花火を見る。
和己は動く気配がなく、そのまま俺のことを抱きしめて花火を見ているようだった。
正直恥ずかしい。
けど、人目もないし、嬉しいという気持ちもある。
恋人っぽい雰囲気で花火を見れることに頬が緩むのを感じながら打ちあがっていく花火を楽しんでいた。
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