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第5話

相手が男だとか、ここが学校だとか、そんなこと文川に触れた一瞬で弾けた。 文川の唇を舐めて、軽く噛みついてわずかに開いた唇から舌を差し込む。 ヘビースモーカーだけあって、くらくらするくらいの煙草の匂いと味に支配された口内。 でもそれがイヤじゃない。 文川のだって、さらに欲情は増す。 夢中で口内に舌を這わせた。 文川が自分から舌を動かすことはなかったから、無理やり絡めて、甘噛みして。 唾液があわさって、こぼれて、水音がして、頭ん中が熱でぼうっとしてくる。 理性なんてあるわけない。 一年半以上の片思いの箍が外れた俺は貪るようにキスして、そして文川に触れた。 白衣の下に手を入れて、ボタンを外して手を滑り込ませる。 女とは違う硬さ。 意外に筋肉質な胸板。 だけど、どの女よりも俺にとっては―――。 「………え」 ぐっと、肩を掴まれ押された。 無理やりひきはがされた唇が寂しい。けど我に返って文川を見る。 「おい、汐井」 眉を寄せた文川が呆れたようにため息を吐く。 そして煙草を灰皿に押し付けながら、俺のネクタイをひっぱった。 強く引かれてバランスを崩した俺は文川の足元に膝まづく格好になってしまう。 「お前、まさかこの俺をヤるつもりじゃねーよな」 「………そうだよ。俺は……、お前がっ」 グッときつくまたネクタイを引っ張られた。 文川の顔が俺に近づいてくる。 「悪いな。俺は突っ込まれる趣味はねーんだよ」 やっぱり、無理……だよ―――な……。 「……ッ!」 だけどマイナスの思考は一瞬で止まる。 塞がれた唇。 今度は俺の口内に入り込んだ舌。 さっき俺がしたように、今度は文川の舌が俺の口内で這いまわる。 戸惑ったのは一瞬で、また我を忘れて文川の舌に舌を絡めた。 「……ん……っ」 俺なんかより数倍うまいキス。 翻弄されて、どんどん身体が熱くなっていく。 糸が引くくらいに深く交わしたキスに身体中が熱を帯びていた。 ゆっくりと離れた唇に、薄く目を開ける。 文川はまだ唇が触れそうなほど近くにいたまま、―――笑いを含んだ声で、告げた。 「どう考えても、タチは、俺、だろ?」 そしてその言葉の意味を理解するより先に、また唇を塞がれた。

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