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第10話

ずっと触れたかった文川の髪に手を差し込んで、ずっと呼びたかった―――名前を、呼んだ。 「……和…己……」 好きだ、と小さく耳元で囁いた。 瞬間、俺のナカで文川のモノの質量が増した気がした。 そのあと舌打ちが聞こえてきたかと思うと文川が俺の髪を引っ張る。 顔が離されすぐ間近で視線を合わせると、文川は眉を寄せて俺を睨んでいた。 名前を呼んだのがまずかったのか? 身体中を侵す快感の中で、小さな不安が落ちる。 「……お前、不意うち止めろ。持たなくなるだろうが……っ、くそ!」 荒く息を吐くと文川が俺の唇を塞ぎ、激しく舌を絡めてきた。 身体はぴったりと寄せあったまま、床に倒されて正常位で激しく突き上げられる。 「……ッ、……ン……っ」 吐射感と、後孔から湧き上がる手のつけられない、押さえることのできない強烈な快感。 ガクガクと脚や身体が震えているのがわかる。 いつもと違う強い絶頂の予感に必死で文川にしがみつきながら舌を絡めた。 そして―――。 「っ、あ、……ッン!!」 キスの合間の一瞬、奥深くを強く突き上げられ、俺の目の前はスパークした。 同時に生温かい液体が腹部を濡らすのを意識の遠くで感じ。 「……くッ!」 俺のナカに熱いものが吐き出されたのがわかった―――……。 *** カチン、と独特の金属音が響いて薄く目を開けた。 床に寝転がったまま、首だけを動かして音の先を見る。 壁に背をつけ床に座り込んだ文川がジッポで煙草に火をつけているところだった。 ―――お互い欲を吐き出して、もう10分くらい経とうとしてる。 あの絶頂のあと脱力してしまった俺に何度か文川は腰を打ちつけて、出て行った。 それが少し寂しくて、でも俺のナカから文川が放った欲の印が流れ出る感触に―――嬉しさを感じる俺は……バカなんだろうか。 快感の余韻と後孔の痛みにも似た痺れのような違和感。 射精もしたからとにかくだるくて動けずにいた俺の腹部を文川がティッシュで拭いてくれた。 それから「少し休んでろ」と白衣をかぶせてくれて、そのまま横になっていた。 さっきまで何度も合わせていた唇が煙草を咥え、紫煙を吐き出す。 その様子をぼんやり眺めていると文川と目があった。 文川は口角を上げると吸いかけの煙草を俺に差し出す。 一瞬戸惑ったけど、半身を起してそれを受け取った。 文川が吸っていた煙草を咥える。 ゆっくりと吸いこんで、口の中に広がる苦みと肺に達する煙に―――次の瞬間咳き込んでいた。 ごほごほ、と激しい咳が出てしまう。 「情けねぇな」 クッ、と笑う文川に、ムッとしながら軽く睨みつける。 「しょーがねーだろ。初めて吸ったんだから。つーか、教師のくせに生徒に煙草渡すなよ」 煙草のどこが美味しいのかわからない。 だけど文川に返すことはせずに、また口に咥えた。 「俺がお前の歳はすでに吸ってたぞ」 批判したのを気にも留めずに、文川は逆に小馬鹿にするように目を細める。 知るか、と悪態付きながら煙を吸い込んで、今度はどうにか吐かずに紫煙を吐き出した。 宙に漂うそれを眺め、立てた膝に頬杖つく。 「……なぁ、文川」 「なんだ?」 「なんで」 さっきまで俺たちがしていた行為は紛れもなくセックス。 「……なんで―――俺とシたんだ?」 だけど、なぜ文川が受け入れたのかわからなかった。

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