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第11話

じっと視線を向けると、文川はポケットから煙草を取り出し一本口に咥える。 それが最後の一本だったみたいで空になった箱を握りつぶすと無造作に投げた。 デスク横に置いてあるゴミ箱に綺麗な放物線を描き落下していく。 文川はその様子もちらりとも見ずに、俺を見つめ返していた。 「なんで? それ、そっくりそのまま返すぞ。お前こそ、なんで俺とヤった?」 火をつけて旨そうに煙草を吸っている文川。 俺は問い返されたその言葉に戸惑った。 なんで? こいつは俺の告白を聞いてなかったんだろうか。 俺が好きだと言ったことを、理解してないんだろうか。 「……意味わかんね~んだけど。俺は、文川が好きだから。だから―――ヤりたいって思って」 告白して振られるだけだと思っていたから、正直セックスになんで流れたのかはわからない。 でも、触れるのを止められなかったら欲求が増すのは当然で、たとえ俺が受け入れる側でも触れ合いたかった。 「ふぅん。最後の思い出に、か?」 灰皿を俺に寄こしながら、文川はさらりと言った。 「は?」 呆ける俺の手にある煙草から長くなっていた灰がぎりぎり灰皿の上に落ちる。 文川は薄く笑いながら、だけど冷たく目を細めた。 「オヤジさんの転勤が決まって家族で引っ越し。もう会うこともなくなるから最後に告白して、それで流れでセックスした、か?」 ―――驚いて、絶句した。 なんで、って言いたかったけどなかなか言葉が出ずにいたら文川が続けた。 「たまたま岸田との話しを聞いた。お前が引っ越しするっつー話しをな」 岸田っていうのは俺の友達。 中学からずっと一緒だった岸田にオヤジの転勤の話をしたのは1週間前だ。 それを文川が聞いていた。 『最後の思い出に』 そう文川は言った。 そう文川は思っていて、俺とセックスをした? 「………同情?」 気づいたら呟いていた。 文川は怪訝そうな顔をしたけど、すぐに嘲笑するように唇を歪めて煙を吐き出した。 「馬鹿か。俺は同情でヤってやるほどヒマでもなければ、お人よしでもねーよ」 「……じゃあ! なんでだよ?!」 わけがわからなくて強く聞き返すと文川はため息ついて立ち上がった。 俺の目の前に立って、腰を折り灰皿に吸い始めたばかりの煙草を擦りつける。 そしてそのまま中腰になり俺の目を間近で見据えた。 「なんで? そりゃ決まってんだろ」 細くなった眼は、ついさっきセックスの最中に見た欲をたぎらせた眼に、似ている。 思わず息を飲んで文川の眼に囚われていると、強く肩を押された。 不意打ちだったから床に倒れかけて肘をつく。 なにするんだよ、と言おうとしたけどすぐにそれは消えた。 俺の上にまたがり、見下ろす文川。 「お前とセックスしたのは―――……逃がさないため」

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