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第13話

不意に、さりげなく落とされた言葉をスルーしそうになった。 だけど、スルーできるはずない。 「……まじで?」 「二度は言わない」 「……ケチだな」 ふん、とまた文川は鼻で笑って、またキスしてきた。 互いの唾液が混じり合わせる濃厚なキスは激しいけど優しかった。 「……文川」 また―――首筋に顔を埋めようとしていた文川を止めると、二度目のせいか不機嫌そうに俺を睨んでくる。 でも、俺もちゃんと言わなきゃいけない。 「あのさ……俺、転校しない。オヤジについていかない」 俺が言い終わると文川は真面目な顔で、眉を寄せた。 「……いいのか。つーか、オヤジさん説得できるのか?」 「いいもなにも、文川が俺のこと好きなんだったら、一緒にいたいし。それに……」 ……どうしようか。 続きを言うべきか悩んだ。 逃がさないようにとか言いながら、いま心配をしてくれているらしい文川に申し訳ないから言わないわけにはいかないけど。 言ったらどんな反応するんだろうか。 「それに……。あのさ、俺別にオヤジからついていてこいって言われてないし」 「……は?」 「俺のオヤジ転勤はするんだけど、3年って決まってるらしくって。単身赴任でもいいんだけど、うち両親らぶらぶでさ。母親はついていくんだ。あと妹がいるんだけど、妹は小学生だから一緒に行って。俺はほら来年受験だし、男だし、残っていいって」 俺を見下ろす文川の表情がどんどん険悪になっていく。 なんとなくその変化にヤバイヤバイ、って思いながら、フォローするように笑った。 「だ、だから俺、文川の傍にずっといる」 「……あ゛ぁ!?」 文川が低く唸る。 「おい、どういう意味だ」 明らかに不機嫌。 転校しないって言ったんだから喜べばいいのに、文川の表情ははっきり怒っている。 「いや、だから……最初から転校の予定なかったってことだよ」 「岸田に言ってたのはなんだったんだ!? お前、めちゃくちゃ沈んだ声で"転校するかも"って言ってただろうが!」 「えーと、それは、その……」 「おら、とっとと言え!」 むちゃくちゃ睨んでくる文川から、視線を逸らせる。 羞恥で顔が赤くなるのを感じた。 「オヤジから……転勤の話しきいたとき……その思いついて……」 「なにをだ」 「……その……文川に告白しようかなって」 不審そうな文川の鋭い視線。 「それで……絶対振られるだろうから……。振られたら気まずいし、転校しちまえばいいかな……って思ってさ……」 ダサいけど、チキンだと思うけど、振られたら逃げるつもりだった。

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