和己はモテると思う。 授業適当だし、ヘビースモーカーだし、口悪いのに。 でも意外に女は悪い男が好きなのか、結構ファンがいる。 昨日は派手そうな女子だったけど、おとなしそうな女子にも―――。 「あ、文川だ。アイツ意外にファン多いよな～」 そう言ったのは岸田。 昼休みに入ったいま、俺たちは購買部にパンを買いに向かってた。 ぼんやりしていた俺は岸田が見ているほうを見て、内心ため息をつく。 俺たちと同じく購買部に買いに来ていたらしい和己がいて、そしてその周りには数人の女生徒。 派手すぎず地味すぎずな女子たちがにこにこと和己に笑いかけていた。 「……顔がいいと大変だな」 「そうだなぁ顔はいいもんなぁ」 俺の言葉に岸田は頷くけど、言った俺自身は複雑だった。 和己に群がる女子たちが別に本気で和己のことを好きだってわけでもないだろう。 "顔"だけで、騒いでいる子たちもいるだろう、きっと。 だけど―――……。 「岸田」 「あー？」 「俺の分、買って来てくれ。先戻る」 「わかった～……って、はぁ！？」 おい、と呼びとめる岸田の制止を無視して俺はその場を足早に立ち去った。 ―――二人きりのときしか俺は和己に触れることができない。 なのに、気軽に和己に触れる女子たちに―――……苛立つなんて。 「……だせぇな」 自分の心の狭さに、ため息が出るのを止められなかった。 ＊＊＊ そしてその日は学校内で和己と喋る機会はなかった。 金曜日だったからいつもなら和己のマンションに行くんだけど、それも今日はお預けだ。 忘年会シーズンの今月、和己も同じ学年を受け持つ先生たちと忘年会があるらしい。 面倒臭い、行く気がしない。 そう言っていたけどキャンセルはできなかったっぽい。 和己のマンションに行っててもよかったんだけど、たまには家に帰って掃除とかもしなければならないし、土曜日に会いにいくようにしていた。 「なぁなぁ、どれがいいと思う？」 そしていま、放課後の帰り道。 岸田が彼女にクリスマスプレゼントを買うっていうから付き合っていた。 交際半年で、他校の女子高に彼女がいる岸田はアクセサリーをあげるつもりらしい。 比較的リーズナブルなアクセサリーショップで岸田は真剣に選んでる。 「あー、わかんねー」 アクセサリーなんて興味ないし、見てもどんなデザインがいいのかわからない。 岸田は俺の気のない返事に「使えねぇなー」とため息つきながら、結局店員に相談していた。 暇になった俺はぼんやりと店内を見て回った。 ショッピングセンター内にあるそのアクセサリーショップ。その向かいや、隣にもアクセサリーショップがあって、何の気なしに見て行った。 指輪やネックレス。店ごとに多少デザインの雰囲気の違いとかあるような気がしなくもない。 値段もそこそこ値が張るのもあったりして、俺は完全に冷やかしだったけど普段見慣れないから意外と見ハマって―――。 「お気に召しましたか？」 店員に声をかけられて我に返った。 「つけてみませんか？」 制服姿の高校生でしかない俺にも上品そうな女性店員はにこやかに勧めてきた。 戸惑う俺に親切に勧めてくれる店員に、言われるままそれを手にした。 「………」 間近に見て、いいな、と思ってしまう。 似合いそうだと思った。 和己に。 誕生日プレゼントに、と頭を過って、値札をちらっと見る。 0がよっつの、頭が3。 「……ありがとうございました」 頭の中で手持ちと、貯金箱の中身を考えて無理だと悟った。 夏まではバイトをしていたけど、それも辞めてた俺にあるのは毎月の小遣いだけ。 正直いつも金欠の状態なのに、3万なんて持ってねーし。 またいつでもどうぞ、と最後までにこやかだった店員に会釈して店を出た。 岸田のいる店まで戻りながら、でも後ろ髪を引かれる。 絶対にさっきのは和己に似合うって気がして買いたい気持ちが優勢だ。 だけど金銭的に微妙って言うのと―――それに"あれ"をプレゼントするのはなんだか……正直どうなのかなって不安もある。 迷いながらショップの近くにある休憩スペースのソファに座った。 どうしようか―――。 ショッピングセンターはクリスマス直前ってこともあるのか結構人が多い。 道行く人が何かしらラッピングされた包みを持っているような気がした。 カップルもいて―――仲良さそうにウィンドウを見ているのを眺めてたら……。 なんだろう？ やっぱり、どうしてもさっきのを和己にプレゼントしたくなった。 居ても立っても居られなくなって岸田のところに行った。 「なぁ、おい、あのさ―――」 急に焦って話しかけてきた俺にまだプレゼント選びをしていた岸田はぽかんとしていたけれど、俺は必死になって岸田にあることを頼み込んでいた。 そしてそれから数十分後、俺はあの店に戻って"あれ"をお取り置きしてもらうことにした。 今は金持ってないから、6日後、取りにくる約束をして―――。