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番外編第6話
「よぉ……久しぶり」
開いた玄関のドアから中に入り、ぎこちなく笑顔を向けた。
ぎこちなく、なのは和己が俺に向ける視線が少し冷たいからだ。
「入れ」
「ああ……」
さっさとリビングに入っていく和己に、俺も小さく頷いてそのあとを追った。
今日は23日。
和己の誕生日の前日だ。
リビングに入ると、和己はソファに座って煙草をふかしている。
灰皿には相変わらず大量の吸い殻。
ただいつも煙が蔓延している科学準備室と比べると、空気清浄機がフル稼働しているからかほんの少しはマシだ。
カーテンが開いたままのマンション10階の外は真っ暗で、もうあと2時間もすれば日付が変わる。
だけど部屋の空気は微妙だった。
気まずさを感じながらも俺は和己の隣に腰を下ろした。
「……一本もらっていいか?」
だいたいは和己とヤったあとだけしか吸わない煙草。
だけどいまは重苦しい空気をどうすればいいのかわからずに、なんとなく吸いたくなった。
和己はちらり俺に視線を向けると無言で煙草の箱を取った。
指で軽く叩き、一本取り出す。
受け取ったそれを口に咥え、和己の煙草から火を分けてもらう。
久しぶり―――5日ぶりに間近で見る和己に、なにもしていないのに身体が疼くのを感じた。
触れたい……。
「火、ついてるぞ」
和己のほうへと身体を向けたまま動かないでいた俺に、和己の冷たい声が響く。
「あ、うん」
慌てて前を向きながら煙草の煙を吸い込んだ。
和己と同じ煙草を吸っている、それだけで落ち着くなんて重症だな。
そんなことを考えながら和己を盗み見る。
先週―――俺が和己への誕生日プレゼントを見つけて、取り置きしてもらったあの日。
その日は結局和己のマンションに泊ったけど、次の日から今日まで見事に和己と顔を合わせた日はなかった。
それは例のプレゼントを買うために短期のバイトをしていたせいだ。
友人の岸田の家は洋菓子店をしていてクリスマスの時期は人出はいくらあっても足りない。
本当ならクリスマス当日までバイトにはいるべきなんだろうけど、無理言って今日夜までの短期バイトをさせてもらった。
そして学校では俺と和己は受け持ちでもなんでもないから、会いに行くか偶然会うか。
会いたい気持ちはあったけどバイト疲れで休み時間は寝てたりしたせいでまったく会うことはなかった。
『ごめん、今週忙しくって会う時間取れそうにない』
バイトっていうのは隠しておきたかったから、それだけ伝えて会わなかった5日間。
和己はなにも深く訊いてはこなかったけど―――。
「あ、もう飯食った?よな……」
「食った」
「………」
明らかに機嫌の悪そうな和己は半分ほど吸った煙草を灰皿ににじり消して、新しい煙草を咥えている。
不機嫌さが、もし数日俺と会えなかったせいだと考えれば―――正直嬉しいとさえ思ってしまう。
なんてことを言ったらきっと和己はさらに不機嫌になるだろうな……。
和己の匂いを感じるだけで、別に旨くもない煙草を早々に消して、俺は胸の内で深呼吸一つして和己に向き直った。
「あ、あのさ。和己―――……」
和己が俺に視線を向ける。
無表情な顔からはなにを考えてるのか読み取れない。
ただ……。
でも、俺は、俺だって久しぶりに会うから、だから―――。
「触っていいか?」
和己の機嫌がどうのこうのじゃなく、俺が我慢できなくて。
答えを待たずに、その唇に唇を押し当てた。
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