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番外編 trick or treat
「あーハロウィンなんだ、今日」
夜のコンビニで毎日なんとなく目にはしていたけど、手描きPOPで『今日はハロウィン"trick or treat!"』とあるコーナーを見て気づいた。
日本人だしハロウィンのイベントだからって特にいままでなにもしたことないけど。
なんとなくパンプキンお化けのキャンディー入りらしいミニバケツをカゴに入れてみた。
「お前、そんなん買うのか」
ガキ、と和己が呆れたように俺を見ながらカゴに商品を入れてくる。
「たまにはいいだろ」
そう返しながら何気なくカゴに視線落とした俺の目に映ったのはコンドームの箱。
「……っ」
「外で煙草吸ってるから買ってこいよ」
和己は俺に財布を投げてよこすと俺の返事も待たずに店外に出ていく。
「ちょっ……」
慌てて呼びとめてももう遅い。
ため息つきながらカゴにまた視線を向け、コンドームの箱を見てまたため息が出た。
そういや確かにもう切れてたけど、でも買うのすっげぇ恥ずかしいんだけど。
しかも3箱とか……いま買わなくてもいいんじゃないか?
だけど買ってこいって言った以上買わなかったら絶対あとでごちゃごちゃ言われる――っていうかされそうだ。
仕方なく、あといくつか飲み物や明日食うパンをカゴに入れてレジに向かった。
***
深いため息をつくと、隣から煙を吹きかけられた。
「辛気臭いため息ついてンな」
「……お前のせいだろ。ゴム3箱とか……恥ずかしかったんだけど」
しかもレジは俺と同じくらいに見える女の子だったし。
「恥ずかしがる意味がわからねぇな」
「……」
そりゃ和己はそうだろう。
またため息ついてたら持ってたビニール袋を和己が取る。
自然と視線を向ければ中から缶ビールを取り出していた。
煙草はいつの間にか消していてビールを開けながらコンビニ前の喫煙所から歩き出す。
歩きながらビールとかお前本当に先生なのか。
そんなこと考えながらも和己と肩を並べた。
10月末の夜は寒い。
これからだんだん寒さが増していくんだろうな、とまだ白くはならない息を吐きだしてみる。
「で、これお前食べるのか?」
コンビニから和己のマンションまでは15分程度。
もっと近くにもう一軒あるのに何故か少し離れたコンビニへと和己はいつも足をのばす。
夜の10時をまわっている道路はあまり人気がなかった。
「ああ……。和己も食べる?」
ハロウィン仕様の飴を取り出し眺めてる和己に訊いてみれば、胡乱な視線を返された。
――食べるワケないか。
「おい、啓」
「これ俺が買ったってこと忘れてないか?」
「……は?」
一瞬意味がわからずに首を傾げる。
だけどすぐにそれが和己の金でお菓子を買ったってことだって気づいた。
「……わかってるけど」
なんなんだ?
不審なものを感じて眉を寄せたらあっというまにビールを飲み干したらしい和己がビール缶を潰しながらニヤリと笑った。
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