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6-S
「おっとー、もう4時だ!じゃ、俺帰るねー」
「え、う、うん」
「また、月曜日〜。バイバーイ」
「バイバイ」
「…」
嵐のように帰っていった吉川とそれに返答する藤。そして、手だけを振った俺。
只今、午後4時。
王子よ…、今帰るなら、最初っからついてくるなよ。
「きょ、今日はありがと」
顔は俺に向けるが、目を合わせない藤。
「あぁ」
全然、見てくれねーのな。
「……」
「……」
「じゃあ、俺も帰るね」
ハーッ?!何言ってんだ。
「藤」
「なに?」
いい加減……俺を見ろよ。
「あのさ、英語の課題やったか?」
「う、うん」
なぁー。
「俺、英語苦手だから、全然進まねーんだよな」
「う、うん?」
っと、やっと見たな。
「で、教えてほしいんだよなぁ…」
「うん、いいよ?」
「良かった」
わけ分かってねー顔してんな。
まぁ目線を合わせねーよりいいか。
「じゃあ、行くか?」
「え?どこに?」
どこにって、
「俺ん家」
に決まってんだろ。
「えっ!な、何で!?」
「何でって。英語教えてくれるんだろ?」
さっき"いいよ"って言ったじゃねーか。
「そ、そうだけど…」
なーに戸惑ってんだよ。
「だから、俺ん家で教えてくれるんだろ?」
「な、何で佐久間の家なの!?」
"何で"ばっかだなぁー、おい。
「は?課題家だし」
「そ、そりゃ分かってるさ!」
なんだ、分かってんじゃねーか。
「じゃあ行くぞ」
「え、今から!?」
「今から」
俺の発言に、いちいち驚く藤。
吉川といたときより、だいぶ表情が見えるようになった。
よし、いつもの藤に戻りつりあるな。
俺の事が好きな、いつもの藤に。
「課題、月曜までだろ」
「うん」
一個も書けてねーし。
マジやべーんだよ。
「日曜は、午後から用事あんだろ」
「うん」
なっちゃんとデートだったか?
今日が今日だけに、マジなっちゃんが羨ましいわ。
「じゃあ、今日、今からしかねーだろ」
「…うん」
藤の顔に浮かぶのは、戸惑いだけじゃない。
「しのごの言わずに、行くぞ」
「うん!」
そうやって笑ってくれればいい。
俺の横で、いつもの藤で、いてくれればいい。
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