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第2話

色々悩んだ挙句、帰る事にした。 やっぱり人気者とは居たくない。そう思った。 詞空には悪いけど、これで僕に愛想を尽かしてくれたら良いな。 彼が僕に話し掛けない場面を想像したら、胸が痛んだ。 ……勝手だなぁ。詞空みたいな奴が、僕を愛してくれる筈が無いのに。 それに詞空と一緒に居ると、僕の中の何かが零れてしまいそうで恐い。 まるで、詞空に愛してと縋ってしまいそうな。 男同士なんだから気持ち悪いと思われるのがオチだ。 ……嫌われたくない。けれど傍に居て欲しい訳じゃない。 何時からだっけ。人の愛に触れてみたいと思い始めたのは。 僕なんか愛されるわけ無いのに。僕と一緒に居たいと思う物好きなんて…… 「双葉!!」 大声で自分の名を呼ばれ、ビクッと身体が反応した。 って、この声詞空!? 声の主が分かった瞬間、僕は振り返る事も無く走り出した。 後ろから追って来る気配がする。 何で、追いかけて来るの。こんな面倒くさい奴、放っておけば良いのに。 それは、詞空ではなく僕自身の願望だった。 詞空が僕の腕を掴んだ。 直ぐに追い付かれると分かってたのに、何で無駄な体力を消耗するかな。 「双葉」 再び名前を呼ばれたが、僕は視線を彼に向けず、地面の方に向けていた。 「……如何して、先に帰ったの」 低く落ち着いた声。けれど微かに、怒りも含まれていた。 「帰るなんて言ってない」 言葉少なくそう言うと、詞空が息を呑んだ。 僕は詞空の手を振り払おうとしたが、彼は依然として手を離さない。 「……離して」 小さい声で告げるが、詞空は何かに囚われている様で、上の空だった。 「……詞空?」 気になって顔を覗き込むと、それに気付いた彼は仰け反った。 僕は目を瞬かせ、詞空を見上げる。 何か挙動不審だなぁ。如何したんだろ。 僕には詞空の様子が可笑しい事の原因が分からなかったので、さっさと帰ろうとした。 詞空が慌てて僕の肩を掴んだ。 「双葉、待って。そんなに俺と一緒に居るのが嫌なの?」 その問いに、僕は戸惑った。 何て答えれば良いんだろう…… 仮に嫌だと言ったら、詞空は傷付くだろうか。それとも僕に構って来なくなる? それを想像すると、嫌な気持ちになって来る。 この持て余した感情はなんなんだ。 それで、僕は思わず言ってしまった。 「分からない」 僕の問いに、詞空は目を丸くする。 けれど、直ぐに笑顔になった。 「良かった」 その呟きに、今度は僕が目を丸くした。 は?良かった?何が? 詞空は先程とは打って変わり、またニコニコと笑顔になった。 表情豊かだな、ほんと…… 「嫌だって言われたら、二度とそんな事言わない様に教え直そうって思ってたから」 ゾクッと背筋に寒気が走った。 この男、そんな思考持ってたの? 目の前に居る詞空が、急に怖くなった。 まさかと思うけど、詞空って…… 「分からないなら、好きって言わせてみせるよ。だから双葉、帰ろう?」 とても優しく言ってるのに、無言の圧力を感じた僕は、結局詞空と帰る事になった。 これからは詞空の地雷を踏まない様に気を付けよう……

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