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第5話
「……だ、か……め……って」
「……ょ……し……な……」
んん、煩さ……折角気持ち良く寝てたのに……てか何の騒ぎ?
目を擦りながらカーテンを開け放つ。
喧騒は保健室内みたいだけど、一応病人居るんだから静かにしなよ。
ん?今の宮野さんの声の様な……もう一人も聞き覚えが……
カーテンを開けた事を後悔した。視線の先に、詞空が立っていたから。
「双葉!」
即座にカーテンを閉め直そうとした僕の傍まで駆け寄り、顔を覗き込んで来た。
「保健室に居るって聞いて飛んで来たんだ。具合悪いの?帰るなら俺が送って行くけど」
矢継ぎ早に言われ、寝起きの頭じゃ整理出来ない。
そんな僕を見兼ねてか、宮野さんが詞空に話し掛けた。
「詞空、授業中だろ。元気なお前は戻れ」
が、詞空は思いっきり宮野さんを睨んだ。それはもう、人を射抜く程の鋭さで。
「俺は双葉が心配なんです。双葉の体調が回復するまで傍に居させて下さい」
ごめん詞空、君が居ると治るもんも治らないよ。
宮野さんは僕に同情の視線を寄越した。え、まさか見捨てたりしないよな?
「詞空。お前の気持ちは痛い程分かった。でも此処はあくまでも保健室。怪我人や病人が使う場所なんだから、戻りなさい」
わあ、宮野さんが珍しく先生してる。と場違いな、しかも失礼な事を考えている間に、詞空は出て行った様だ。
宮野さんは溜め息を吐いて椅子に座った。
「モテ過ぎんのも考えものだな」
僕の事を言ってるんだと直感で感じ取り、宮野さんの片方の頬を手で引っ張る。
「ふぁにすんら」
呂律が回っていなくて、何と言ってるのか分からないが、本気で殴られそうだったので直ぐに辞めた。
「宮野さんが僕に変な視線向けるから、見捨てられるかと思った」
「そこまで薄情じゃねーし」
宮野さんには助けてもらってばかりだなぁ。
「あ、そうだ双葉。お前もう保健室来んなよ」
衝撃の一言を受け、僕は目を瞠る。
え、この人なんて言ったの?もう来るな?
「宮野さん、何で……」
言っちゃあなんだけど、宮野さん以外に頼れる人間が居ないんだけど。
「だってさ、彼奴の殺気を超えた殺意みたいなもん感じて。あ、殺されるなって思ったくらいだし。優良物件なんて言った事撤回するわ。優良どころか危険分子じゃん」
すげー否定してる。そんなに恐かったのか。
「お前が詞空に躊躇う理由が分かったよ」
と、言うが僕自身は納得していない。保健室に来るなは、詞空が着いてくるからだろうけど……
「宮野さん本格的に僕を切り離しに来てるよね」
「あ?誰がんな事言った?」
え、違うの。
「見捨てるんなら最初から面倒見たりしないっての。保健室の隣に空き部屋あるだろ?そこで休んだり相談乗るから」
僕はそれを聞き、宮野さんに抱き着いた。
「宮野さん大好きー」
「はいはい。俺もだよ」
かなり適当に流されたが、やっぱ宮野さんって良い人だなぁ。
僕も将来、宮野さんみたいな人間になりたいかも。
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