6 / 10

第6話

体調も取り敢えずは回復した僕は教室に戻った。 教室の後ろのドアから入り、自分の席に座る。 二、三週間も経てばある程度のグループが出来上がっていて、皆楽しそうに話している。 僕は友達が居ないから独りだけど、これが一番。 だってこのクラス、女子より男子が煩いから。 詞空を中心とした取り巻きが凄く煩くて堪らない。 僕がそう思ってるんだから、詞空本人は困る処か苛ついているかもしれない。 でも下手に関われば僕に危害が及ぶ。矢張りこの世は弱肉強食の世界だ。 机に突っ伏そうとすると、ノートが眼前に現れた。 ビックリして顔を上げると、僕の前の席に座る蒼井純がノートを手で持っていた。 「蒼樹君、さっきの授業のノート。写して良いよ」 僕はお礼を言ってノートを受け取った。 蒼井君にノートを見せて貰うのは何回目だっけ。多過ぎて覚えてない。 保健室に行く事が多い僕を見兼ねて、蒼井君は自分が書き写したノートを僕に見せてくれた事があった。 それからというもの、蒼井君は僕が保健室へ行く度にノートを貸してくれた。 こういった親切な人間は数が少ない。故に僕は彼を詞空とは別の意味で重宝している。 詞空を重宝してるのは僕を愛してくれるかもしれない人間だから。性格は好みじゃないけど。 「蒼井君何時もありがと。助かってるよ」 「役に立ってるなら全然大丈夫だよ」 と可愛らしい笑顔を浮かべる。 明らかに詞空とは違うタイプの子で、扱いが難しい。 どう接したら良いのか分からなくなる。 けど蒼井君は本当に優しい人間みたいだし、害は無さそう。 そう思って蒼井君をガン見していると、背中に悪寒が走った。ゾッとして目だけを動かすと、詞空が此方をじっと見ていた。 え、怖い……てかごめん蒼井君。僕、君の事巻き込んだかも。 そう思えるくらい詞空の殺気を感じた。 蒼井君も何かの気配を感じ取ったのか、僕の方へ顔を向けた。 「蒼樹君、教室内寒くない……?」 「そうだね……」 僕の所為だとは言い出せず、詞空の所為とも言えず、曖昧に濁すしかなかった。 授業開始のチャイムが鳴ったと同時に、教師が入って来たので蒼井君は前を向いた。 兎に角この授業が終われば次は昼休み。詞空は取り巻きに囲まれるだろうからその隙にまた屋上に行こう。 と、何気に詞空の方へ視線を向けたら、それに気付いたのか、一瞬だけ顔を後ろに反らした。 そして視界に僕を入れると、ふわっと柔らかく笑った。 何時も僕にだけ見せる、優しい笑顔。 急に恥ずかしくなり、慌てて詞空から顔を背け、窓の景色に意識を全て集中させた。 そうじゃないと、自分自身が可笑しく成りそうだった。 他人に振り回されるのは、どうも苦手だ。

ともだちにシェアしよう!