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第6話
体調も取り敢えずは回復した僕は教室に戻った。
教室の後ろのドアから入り、自分の席に座る。
二、三週間も経てばある程度のグループが出来上がっていて、皆楽しそうに話している。
僕は友達が居ないから独りだけど、これが一番。
だってこのクラス、女子より男子が煩いから。
詞空を中心とした取り巻きが凄く煩くて堪らない。
僕がそう思ってるんだから、詞空本人は困る処か苛ついているかもしれない。
でも下手に関われば僕に危害が及ぶ。矢張りこの世は弱肉強食の世界だ。
机に突っ伏そうとすると、ノートが眼前に現れた。
ビックリして顔を上げると、僕の前の席に座る蒼井純がノートを手で持っていた。
「蒼樹君、さっきの授業のノート。写して良いよ」
僕はお礼を言ってノートを受け取った。
蒼井君にノートを見せて貰うのは何回目だっけ。多過ぎて覚えてない。
保健室に行く事が多い僕を見兼ねて、蒼井君は自分が書き写したノートを僕に見せてくれた事があった。
それからというもの、蒼井君は僕が保健室へ行く度にノートを貸してくれた。
こういった親切な人間は数が少ない。故に僕は彼を詞空とは別の意味で重宝している。
詞空を重宝してるのは僕を愛してくれるかもしれない人間だから。性格は好みじゃないけど。
「蒼井君何時もありがと。助かってるよ」
「役に立ってるなら全然大丈夫だよ」
と可愛らしい笑顔を浮かべる。
明らかに詞空とは違うタイプの子で、扱いが難しい。
どう接したら良いのか分からなくなる。
けど蒼井君は本当に優しい人間みたいだし、害は無さそう。
そう思って蒼井君をガン見していると、背中に悪寒が走った。ゾッとして目だけを動かすと、詞空が此方をじっと見ていた。
え、怖い……てかごめん蒼井君。僕、君の事巻き込んだかも。
そう思えるくらい詞空の殺気を感じた。
蒼井君も何かの気配を感じ取ったのか、僕の方へ顔を向けた。
「蒼樹君、教室内寒くない……?」
「そうだね……」
僕の所為だとは言い出せず、詞空の所為とも言えず、曖昧に濁すしかなかった。
授業開始のチャイムが鳴ったと同時に、教師が入って来たので蒼井君は前を向いた。
兎に角この授業が終われば次は昼休み。詞空は取り巻きに囲まれるだろうからその隙にまた屋上に行こう。
と、何気に詞空の方へ視線を向けたら、それに気付いたのか、一瞬だけ顔を後ろに反らした。
そして視界に僕を入れると、ふわっと柔らかく笑った。
何時も僕にだけ見せる、優しい笑顔。
急に恥ずかしくなり、慌てて詞空から顔を背け、窓の景色に意識を全て集中させた。
そうじゃないと、自分自身が可笑しく成りそうだった。
他人に振り回されるのは、どうも苦手だ。
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