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第7話

今日は曇りの所為か、あまり太陽の光が射していない。その方が僕には有難い。 詞空が取り巻き達に囲まれてる隙に屋上に来たのは良い。後は詞空が僕を追って来なければ…… 備え付けのベンチに横になり、瞼を閉じる。少し寝よう。あの煩いのが来る前に。 だが、直ぐに声が聞こえた。嫌でも毎日聴く、聴き慣れた声が…… そっと目を開けると、美しく整った顔が間近まで迫っていて、驚いた僕は危うく殴る処だった。 詞空にもそれが伝わったのか、咄嗟に後ろへ飛び退いた。 「ごめん。起こしちゃった?」 首を傾げ問うその姿に、何度目かの怒りが湧いた。てか、取り巻きは如何したんだ。 あの集団まで此処に来たら、僕は放課後リンチに遭うだろう。 まあそんな事されても正当防衛と言い張り返り討ちにするけど。 僕は詞空に視線を移し、考える。何をしたらこの男は此処から去ってくれるだろうか。 今は只々寝たい。でも詞空が居る傍でオチオチ眠れない。 コイツの傍で寝たら、変に誤解されそう。何って、自分は信頼されてるんだとか。 詞空の中では、自分の傍で寝る人間は自身に警戒が無く、信頼している証らしい。男の取り巻き達が騒いでいた。 それを本人に確かめもせず鵜呑みにしている僕だが、取り巻き達はガチ恋勢なので把握している情報は信憑性が高い。 だから僕は迂闊に寝れない。避けさせたいのに自分から懐かせる要素を更に増やして何になる。 詞空は僕がずっと黙り込んでいる事に違和感を感じたのか、近寄って来た。 「双葉、具合悪いの?双葉は直ぐ体調を崩すから……」 心配そうに見つめる眼差し、愛おしげに頬を撫でる手、全てが神経を支配する。 詞空に少しずつ絆されているのは僕も分かっている。でもこれ以上は絆されたくない。 咄嗟に、自身の手を拳に変え、詞空の美しき顔面にお見舞いした。 本当に一瞬の出来事で、詞空は避ける為に後ろに下がり過ぎ、バランスを崩して尻餅を付いた。 それを見た僕は一目散に逃げた。もう詞空に嫌われても如何でも良い。 結局、人間なんて自分が一番大切な生き物だ。自分以上に大切な人間なんて居ないだろう。 僕はそれを知っていて、だからこそ他人と関わるのはやめて。 ああ、如何して僕は、好きになりかけた人間にすら心を開けないんだろう。 苦しくて、辛くて、痛くて、泣きそうで。傷付くのが怖い。そんな自分勝手の感情を持て余した。 他人と関わって傷付くのが怖い臆病者の事なんて、誰も愛してくれるわけないのに。 必死に走りながら保健室に飛び込んだ。大きな音を立ててドアを開けた所為か、宮野さんは唖然としていた。 現状を説明している暇が無いので、僕は早口に捲し立てた。 「匿って、詞空が来たら此処には居ないって言って!」 宮野さんの呼び止める声に耳を貸さず、隣の部屋に移動した。 急に走った事で息が上がり、呼吸が乱れた。呼吸を整えながら、革のソファーに寝転がる。 もう嫌だ……しんどい…… ゼェゼェと息を切らしながら、息を吐き出し、目を閉じた。 眠気が限界だった。それに寝れば、少しは落ち着くかもしれない。 そんな淡い期待を抱いて、眠りに落ちた。

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