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第4話
怪盗とは笑わせる。
もう少し骨が有るかと思っていたが、どうやら違ったようだ。
一瞬で手の内に落ちた怪盗S。奄美がお宝に目もくれなかったのは、それがレプリカだったからだ。既に来る事が分かっている相手に、何の用意もしない訳がない。
奄美は意識を無くした怪盗を簡単に縛り上げると、目元を覆ったマスクを外し目を奪われた。
漆黒の妖艶な怪盗ってところか……。
自身の車のトランクへと怪盗Sを押し込むと、少数の従業員にアイスドロップの最後の出荷指示を出しファクトリーを後にした。
*
どれぐらい意識を失っていたのか。揺れる空間で睫毛を震わせ、怪盗Sは辺りを見渡した。
暗闇が広がるだけの空間は、オイルが焼けた様な埃っぽい空気を漂わせている。
俺は、このまま殺されるのか?
身体を捩ると縛り上げられた紐が緩み、力を入れただけで解けそうになっていた。
揺れが収まるとガチャリと音がし、光が差し込み眩しさに目を細め顔を歪める。明かりに慣れると、徐々に浮かび上がる人影が、じっとこちらを覗いていた。
先ほど対峙した時は一瞬で見られ無かったが、随分精悍な顔立ちだと怪盗Sは男を見て思っていた。
見とれている場合か!
最後のチャンスだ。
体を起し従順な振りをすると一気に紐を解き、男目掛けて拳を繰り出す。男は目を見開きながらも掌で拳を受け止めると、空夢の腕を捻り後ろ手にロープできつく結び直した。
「フッ、随分じゃじゃ馬だな。まだ自分の置かれている状況が分からないのか?」
男がニヤリとし挑発すれば、怪盗Sはジロッと睨み付け、マスクから覗く瞳だけで威嚇を掛ける。口を塞がれていては、言いたい事すら発せられない。
そのまま荷物の様に男の肩に担ぎ上げられると、建物に入りエレベーターへと乗り込んだ。
「まぁ、寛げよ俺のマンションだ。他に誰も居やしない。俺はクラウン☆カンパニーの奄美だ」
ソファーに落とされると楽にしろと促され、悠長に自己紹介を始めた奄美と言う男に、怪盗Sは怪訝な顔をしてしまう。
呻いて訴えると口を塞がれていた布を解かれ、やっとこ人間らしい声を発する事が叶った。
「……寛げ? 普通警察に連行とかじゃ無いんですか?」
「ほー、お前はそれを望んで居るのか? 少し話をしようじゃ無いか」
「話……だと? 盗人捕まえてする事ですかね……」
「盗人ね……怪盗S……瀬田空夢 だったかな? 年は二十一歳、大学生か? それと……これだ。この借金は一体なんだ? どうしたらこんな金額になるか教えて欲しいね。お前、怪盗なんてした事無いだろ? お前の侵入は幼稚で素人丸出しだ。ほら、正直に話してみろ。今なら大ごとにしないで解放してやっても良い」
怪盗S事、瀬田空夢は奄美の言葉を聞き、ゴクリと唾を飲み込んだ。
個人を証明する物など持ち合わせていなかった。なのに奄美はスラスラと、空夢の経歴を提示した。簡単に調べられる情報では無い。しかもこの短時間にだ。
この男はそこらの刑事よりヤバいのではと、悠然と構え慈悲深そうに微笑む奄美に、青い顔で黙りを決め込んでいた。
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