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チョコアイスにお願い ③ナツキ

「楽しそうですね」 少しも楽しくなさそうにヤツは言った。 端正な顔の眉だけを僅かに上げる表情は俺が一番好きな顔だ。 生徒会室にヤツが入って来たのを誰より一番最初に気付いたのは多分俺だけど そんな事は誰も知らない。 「ちーす」 爽やかな笑顔を振りまきながらヤツが探すのは 俺の前で無邪気にチョコアイスを食べてる男だ。 ヤツがその男……ハルを見つけた瞬間を狙って 「誰のこと考えてるのかな?」 ハルの耳元に口を寄せて囁いてやった。 途端ヤツの周りの温度が急降下するのがわかった。 ーーたまんねぇぇ。 ーーほら、もっと怒ってみろよ。 好青年を絵に描いたようヤツが 幼馴染で親友のハルのこととなるとちょっとおかしい っていうか、人のこと言えないか……俺も。 ハルが振り向いてアイスを差し出すと途端にヤツの纏う空気は甘くなるから 俺の心は軋みだす。 だから 「後は任せたよ?」 最高の笑顔でハルに手を振ってその場を後にした。 ヤツが顔を顰めたのを視線の端で捉えながら。 「いい加減にしないと本当に嫌われますよ?」 「はっ?!!なんの事?」 「好意は素直に表した方がいいってことですよ」 「訳の分かんない事、言わないでくれるかな?気持ち悪いよ!!」 「気持ち悪いって……酷いなあ。僕はこんなに会長のこと好きなのに」 「あのね、そーゆー発言が気持ち悪いんだよっ」 突然現れてそのまま背後から覆いかぶさるように抱きついてくる男を 肩を揺すって振り払う。 どんなに邪険にされても気にする風もなくニコニコしてる男は 一学年下で韓流スター並みのルックスだと評判の広報担当だ。 「まあ、僕としてはその方が都合がいいんですけどね……」 「……?」 「嫌われたら、遠慮なく僕の胸に飛び込んできて下さいっ!! ってことですよ」 「ホント、バカなの?君って」 最早ため息すら出ないレベル。 本気なのか冗談なのか顔を合わせばいつもこの調子。 だけど俺の頭を過ぎるのは生徒会室に残してきた二人のこと。 微妙な距離をとりながらもとても自然に会話する二人。 それは…… 付き合い始めの恋人同士のようにも永く連れ添った夫婦のようにも見えて。 胸が痛い……。 ーーハートのチョコアイス? ーーはははっ、んなもんお前らには……いんねぇーんじゃね? 六つ並んだチョコアイスの中に、それはたった一つだけ……。 何万個、何十万個のチョコアイスの中の数個の奇跡。 それは 想う人に想われる奇跡みたいに。 ましてやそれが同性ならなおのこと……。 「なあー、アキヒコ。今日帰り、コンビニ付き合えよ」 「も、もちろん、もちろん」 唐突な俺の誘いに驚きながらも何度も何度も頷いて応える男は 何故だか泣いてるみたいに見えた。 ーー泣けない ーー俺の代わりに……

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