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5-さたでいないとで2P玄関えっち

「あ、いたいた、笠原」 「遅、紙屋」 「え、今何時、あ、二分遅刻してたね、ごめん」 「三分前に俺は来てたから五分遅刻」 土曜日の昼過ぎ、駅ビルで待ち合わせしていた笠原と紙屋。 8・9階のシネコンで話題のアニメ映画を観るのが今日の目的だった。 「飲みモンかポップコーンおごって」 「うん、わかった」 「冗談に決まってんだろ、がめつい加賀見といっしょにすんな」 当の加賀見は「アニメ~? 俺はいっかな~」とお誘いを辞退していた。 二人は一先ずチケットを買い、上映時間までぶらぶら、ぶらぶら。 「腹へったかも」 「何か食べる?」 「んー」 「タコ焼き? ドーナツ? バーガー?」 「あ、本屋」 「本屋? 行きたいの?」 「確か新刊出てるハズ」 「何の新刊?」 「ラーメン食いたいかも」 「じゃあ本屋行って新刊買ってラーメン食べて、映画館行こうか」 「んー」 フルジップのフードパーカーにずっと両手を突っ込んでいる笠原、あっち見たりこっち見たり、ときどき人にぶつかったり。 「人多いね、映画も多そう」 マフラーにニットカーディガンの紙屋、親子連れのお子様にも気を付けて、混雑するフロアをゆっくり歩いている。 「遅、紙屋」 「ごめん」 二人は本屋、ラーメン、映画というコースを終えて駅ビルを後にした。 夕暮れの街路にはクリスマスのイルミネーション。 行き交うカップルがいつにもまして多いと感じるのは気のせいだろうか。 「エンディングかっこよかったね」 「俺はオープニングの方がいい、さむ」 「ねぇ、笠原」 「結局また続編、このパターン飽きた」 「今日、デートみたいじゃない?」 笠原はぐるりと隣を歩く紙屋を見た、自分で言っておきながら紙屋は赤くなっている。 笠原はそんな紙屋からまたぐるりと顔を背けた。 「……お前何言ってんの、きめぇ」 ちょっぴり傷ついた紙屋。 でも彼は気を取り直し「何のDVD借りて帰ろうか」と傷心を隠して普段通りの口調で呟いた。 今日も紙屋の両親は小旅行中、よって笠原は紙屋宅に当然のようにお泊まり。 自宅近くのレンタルショップに寄ってSFやアクションのコーナーをうろうろ、うろうろ。 「今日観たやつの前の見たい」 アニメ作品を持ってきた笠原に「いいよ」と答えようとして、咄嗟にその回答を喉奥に引っ込めた紙屋は。 「加賀見が嫌がるかも」 「え?」 「加賀見、来るよ、七時過ぎくらいに」 「えっっ?」 驚いた、というより、笠原は露骨に嫌そうな顔をした。 あまりの拒否ぶりに紙屋の方が驚いてしまう。 「……そんなに嫌だった?」 「あっ、えっ、だって! アイツ変態だろっ! ッ……まーいーよ、どーでもいーわ」 『今日、デートみたいじゃ?』 あん時、俺、めちゃくちゃ顔まっかになった。 きめぇ、のは俺の方だった。 見慣れて、うざいとすら思ってた季節限定の明かりがすげー綺麗に見えて……もうなんだよこれ、きめぇ、きめぇ。

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