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始業式が済んだ教室、大掃除タイム、それぞれ掃除用具を手にしたカ行トリオ。
「名前とか聞いたのかよ?」
目つきと口と態度が悪く、ほとんどのクラスメートから敬遠されている笠原、モップで適当に辺りを掃きながら問いかける。
「聞きたかったけど聞けなかったです!」
「きっと近くに住んでる人だよね」
雑巾で窓を拭きながら問いかけるしっかり者ひとりっこの紙屋。
「だと思う! だから今日同じ公園行ってみる!」
「ねぇ、加賀見、まさかとは思うけど俺達が昨日あんなこと言ったから」
「ほえ?」
「だから、その人に逃避したとか、そういうんじゃないよね?」
「? 紙屋、昨日俺になんか言ったっけ?」
憤慨する笠原、ため息も出ない紙屋。
塵取り係の加賀見は他のクラスメートに呼ばれて駆け足で埃回収に向かった。
「相手、二十代? 彼女いるんじゃねーの」
「加賀見、女子受けはいいけどね。どうなるかなぁ」
あほあほ加賀見に呆れながらもどこか放っておけない友人を案じる笠原と紙屋なのだった。
その日の黄昏刻。
一端帰宅した加賀見は服を着替えて昼寝して、おやつを食べて、キッチンで晩ごはんの支度をしている母親に「ちょっと散歩行ってくる!」と声をかけて外出した。
昨日と同じ公園のベンチに座って、コンビニで買ったペットボトルの蓋をプシュッと開けて炭酸ゴクゴク。
会えるかなー会いたいなー会えないかなー。
もし会えたらどうしよ?
何て話しかけよう?
あ、そだそだ、昨日はわざわざ心配して起こしてくれてありがとうございます、ちゃんとお礼が言いたかったんです、とか!
あ、じゃあ何か買っておこっかな、お礼です、受け取ってください的なもの、
「やっぱり」
ビクゥゥッッッと過剰にどびっくりした加賀見、ぐるんと勢いよく振り返れば。
渉が立っていた。
「あ、ごめんね、びっくりさせて」
昨日と同じような格好で、革靴で砂地を歩み、日暮れの公園で一人ベンチに座っていた加賀見の元へやってきた。
「もしかしたらと思ったら、やっぱり、そうだった」
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