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夜の七時過ぎ。
待ち合わせ場所に指定されたコンビニ、私服できょろきょろそわそわおどおど待っていた加賀見の元に……彼はやってきた。
「ごめんっ、ちょっと遅くなって」
あ・あ・渉さぁぁぁん。
「明日までに経理に提出しないといけない書類、作成するのに手間取っちゃって」
半月ぶりの渉さん、半月前よりかわいい。
俺より年上で柔らか味なんか全っ然ない男の体してるのに。
それに渉さん、走って来たんだ、髪が乱れてる、はぁはぁしてる。
「ううん。平気。渉さんこんばんは!」
「わっっっ!?」
上背ある加賀見にぎゅっとされ、コンビニにいた客や店員にチラ見され、渉はまっかっかになった。
無難にファミレスに入った二人。
「加賀見君、あのね、ああいうことはちょっと、」
「俺、ハンバーグとエビフライセットとから揚げ御膳に決めた!」
「……わぁ、いっぱい食べるね」
いろいろいっぱい食べてるきみのこと好きだよ♪ なんて内容の曲が脳内に再生されて笑ってしまった渉だが、はたと我に返ったように首を左右に振り、まだメニューを覗き込んでいる加賀見に注意した。
「加賀見君、人前であんな、ぎゅっとか、恥ずかしいから。もう駄目だよ?」
すると加賀見はメニュー越しにチラ……と向かい側に着く渉を見つめてきた。
「渉さんに会えて嬉しかったから……ごめんなさい」
素直に謝られて、瞬時にコロコロ変わる男子高校生の表情につい釘づけになる。
「あっ……ううん、謝らないで、遅れた僕が悪いから」
注文して、料理が運ばれてきて、食べ始める。
渉が熱々のシーフードドリアをふーふーしながら半分ほど食べたところで。
「おいしかったーごちそうさま!」
「食べるの早いんだね、加賀見君」
「うん、俺いっぱい食べるし、すぐ食べちゃう」
外見はそうでもないのに中身は中学生みたいだ。
お兄さんがいて、同じカ行で仲のいい友達が二人いて、割とアクティブで。
明るい笑顔にピンクのシャツがよく似合ってる。
「僕は食べるの遅いんだよね。しかも猫舌で」
「猫舌なの? 俺、ふーふーしよっか?」
「あ、いいっ、それはいいからっ。何かデザート食べる?」
また赤面しかけている渉が慌てて尋ねれば。
加賀見は満面の笑みを浮かべて答えた。
「渉さんが食べるの見てる」
ふーふーって、唇ちょっと突き出して、尖らせるの、あれ、かわいい。
じゃあカレーもシチューもふーふー?
あ、またふーふーしてる。
飽きないなーずっと見てたいなー。
「……加賀見君、そんなに見られたら食べづらいよ」
まじまじ見つめてくる加賀見に対し、真っ赤になって情けない声で渉は二度目の注意に至った。
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