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ガラスの向こうでは仕事帰りの社会人やら若者やら制服を着た少年少女が行き交っていた。 同じ路上を歩いているがそれぞれ違う世界に属しているようにも見える。 「渉さんって」 テーブルに身を乗り出して加賀見は渉に問いかけた。 「今までどんな人と付き合ってたの?」 ワクワクした面持ちで目を輝かせている加賀見から、渉は、僅かに視線を逸らした。 グラスの水滴に濡れていた手を紙ナプキンで拭いて、ちょっと恥ずかしそうに新たに頬を赤らめ、小さな声で。 「付き合ったこと、ないよ」 「ほえ?」 「その……好きだった人はいたけど、別に何も……そのまま……今に至るっていうか」 「誰とも付き合ったことないの?」 問い返されて、俯いて縮こまった渉、こっくり頷いた。 しーーーーーーーーん ……あれ、加賀見君、ヒいてる? あれだけ騒がしかった加賀見が沈黙し、周囲のおしゃべりだけが鼓膜に流れ込んできた。 渉はぎこちなく視線を上に戻す。 向かい側で笑顔を浮かべていたはずの加賀見の表情を眼鏡越しに恐る恐る確認してみた、ら。 「ッ……か、加賀見君、よだれ、よだれが」 「ほえっ」 「よだれ出てるよっ」 渉が童貞処女で前も後ろも純潔ということを知った加賀見、体が素直に反応、まさかの事実によだれがだらだら。 渉さん、そうなんだ。 どうしよ。 嬉しくってたまんない。 俺、渉さんの初めてのパコパコ相手になるーーーーー!! 「ッ……鼻血がっ、加賀見君っ、大丈夫?」 「ほえ、大丈夫」 「君って……本当……変わってるね」 タオルハンカチで加賀見の顔を拭いてやりながら、まるで新種の珍種生物に出会ったような新鮮な気持ちに胸がときめきっぱなしの渉なのだった。

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