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「その……加賀見君って、どうして僕と」
「ほえ?」
「付き合いたいって……思ったのかな」
「ほえ……種馬的にピーンときたっていうか」
「えっ? 種馬っ?」
「このベンチで寝てるとこ起こされて、そしたら優しそうな人が覗き込んでるなぁって……パコパコ……」
「パコ? パコ?」
「うーーーーー」
加賀見は唸るなり頭を抱え込んだ。
「か、加賀見君?」
隣で戸惑っている渉を乱れた前髪越しにチラ……と上目遣いで見つめてくる。
「説明すんの、難しい……ちゃんと言わないとだめ……?」
わ。
またそんな。
君ってどうしてそんなに表情が目まぐるしく変わるの?
よだれとか、まさかの鼻血も、とてもびっくりしたけれど。
そんな縋りついてくるような眼差しで、じっと見つめられると、どうしたらいいのかわからなくなるよ……。
「……渉さん」
「ッ……あっ、加賀見くんっ、言ったよねっ? 約束したよねっ? こっこういうことは駄目だって」
「……なんでだめなの」
「ッ……まだ知り合ったばかりで、あ、会うのだってまだ三回目だし……」
「あ!!」
「えっ、ど、どうしたの、ファミレスに何か忘れ物したっ?」
加賀見は大袈裟なくらい動揺した様子で渉に唐突に尋ねてきたのだ。
「誰とも付き合ったことないって、じゃあ、この間ここでしたキスが、渉さんのファーストキスになるの?」
そう。
奥手で消極的な渉は正にそうだったのだ。
「……そうだけど」
「あ!!」
「えっ? こ、今度はどうしたの……?」
「……勃っちゃった」
え。
えええええええええ。
「渉さん、勃っちゃったよぉ」
「ど、どうしようっ、あっ、そこにトイレっ、トイレあるからっ、自分でできるよねっ? 一人でできるもんねっ?」
「渉さんもついてきて……?」
危ない。
それは絶対に危ない。
ような。
気がする。
「一人で行こうっ、早く早く!」
前屈み気味な加賀見をベンチから立たせて両手で背中ドンした渉、冷たい対応かもしれないと心がチクリ痛んだが、自分の身を守るためだ、致し方ない。
そう、僕と加賀見君はまだ出会ったばかり。
焦らずゆっくりお互いを知って。
高校二年生の加賀見君がもっと大人になって、自然な流れで、そういう方向に進めたら……。
「渉さん、ほんと来ない~~?」
「誰か来る前に早くッ!」
「「不憫」」
「だよねっ? 好きな人がすぐそばいるのにトイレでひとりシコシコって、俺って可哀想だよねっ!?」
「違ぇよ、変態」
「今西さんが不憫で泣けてくる」
まっっったく笠原と紙屋に共感してもらえずにガーーーーンな加賀見。
渉と結ばれるまでまだまだ先は長い……?
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