49 / 84
12-2
硬くて、熱くて。
掌の内側で強く……息づいていて。
『うーーーーー……っっ』
首筋にかかった息も、雄っぽい表情も、よく覚えている。
「はぁ……」
渉の唇から重たげなため息が洩れた。
また、もぞり、反対側に体を寄せる。
仕事中でも、コピーをとっているとき、電話で待たされて聞き慣れたメロディを繰り返し聞いているとき、ふとした瞬間に蘇る。
その度に渉は辟易してしまう。
必死になって業務に意識を集中させて有耶無耶にする。
しかし家にいる場合は。
駄目なのに、いけないことなのに、そんな多少の罪悪感に苛まれながらも。
加賀見の熱が刻みつけられた掌で自身の熱を探り当てようとする。
「……」
柔らかな生地の七分丈パンツ越しに触れてみればすでに火照りを帯びた質感。
タッチタイピングを習得した手がぎこちなく上下する。
「……あ」
渉は床に転がっていたティッシュケースを足で近くまで引き寄せて取り上げた。
こんなお行儀の悪い行為、普段の渉なら絶対にしない。
それだけ切羽詰まっているわけだ。
もぞもぞ下の服をずり下ろす。
帰宅してまだ間もない中、すっかり発熱してしまった初心なるペニスを温む下着の内側から取り出す。
ごめんね、加賀見君。
駄目だって、わかってるけど、止められなくて。
芯を宿した竿に絡みついた五指。
ぴくぴく震える熱源を安心させるように掌で包み込み、緩々と、上下に撫でる。
「ん」
背もたれに深く身を預けた渉は首を窄める。
薄目がちに自分自身の火照りを見つめ、ペニスの一番太い箇所を指の輪でくすぐって。
くすぐりながら、もう片方の手で先っぽ全体をやんわり抱き込んで。
敏感なところに同時に刺激を送り込む。
「ん、ん、ん……」
もどかしげに開いたり閉じたりする足。
靴下を脱いだ爪先が力んで丸まっている。
次第に大胆になっていく両手。
クチュ、クチュ、粘ついた音が立ち始める。
「はぁ……っ」
上体を捻った渉は息苦しそうに背もたれに片頬を押しつけた。
まるであのときの加賀見に同調するような危うい気持ちに深く陥って、理性を麻痺させて、溺れるように一心に慰めて。
淡く濡れていた双眸がぎゅっと閉ざされた瞬間。
「ッ…………!!」
咄嗟に翳されたティッシュに受け止められた絶頂の飛沫。
背もたれに片頬を押しつけていた渉は下半身をびくつかせ、喉奥で僅かに鳴いて、ほんの数秒間硬直した。
「………………はぁ……っっ」
強張っていた唇からどっと溢れた吐息。
ぱち、ぱち、瞬きして、口内に溜まっていた唾液を呑み込む。
「…………」
麻痺していた理性が徐々に押し寄せてきて罪悪感が膨れ上がる。
とても申し訳ない気持ちになって一人淋しく処理の処理をしていたら。
♪ピロリーン
必要以上にギクリとした渉、まるで警察に追われている犯罪者みたいだ。
ご丁寧に洗面所でキレイキレイして眼鏡をかけ直して携帯を確認してみれば。
<渉さーん、こんばんは、今何してた!?>
ともだちにシェアしよう!