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都心から離れた海際の水族館に到着してみれば空はすっかり夕焼けに満ちていた。 隣接する小規模な遊園地は茜色に彩られてどこか懐かしさを誘う。 そして、人、人、人。 入場券売り場には長い列が出来上がっていた。 「人いっぱい」 「三連休だからね」 「イルカのショー間に合う?」 「七時と八時からのがあったから。八時のを見ようか」 「ちゃんとリサーチしてる、さすがオトナ」 渉は肩を竦めて水族館の公式サイトを今一度確認した。 イルカショー見たいとか、ほんとかわいい、渉さん。 真横から堂々とジロジロ見つめてくる加賀見に渉は小声で「見過ぎだよ」と注意する。 男同士の組み合わせはそうそういない、見かけてもグループ、二人連れは稀だ。 やっぱりちょっと浮くかな……。 最初は気にしていた渉だったが。 「イルカいっぱいいるよ! 八匹!? 十匹!?」 「そんなにいないよ、よく数えてみて、五頭だから」 「遅っっ!! マンボウ遅っっ!!」 「加賀見君どこに行ったんだろう、あっ、あんなところに」 「ウツボ怖っっ! 海でこんなの遭遇したらお漏らししちゃう!」 「あっ、待って、加賀見君……」 迷子になりかねない勢いで動き回る加賀見を気にするのに精一杯でそれどころではなくなった。 「この曲、ときどき聞くやつだ、有名なの?」 「これは閉館時間に流れるお決まりの曲っていうか」 「え!!!! もう終わり!!??」 周囲にいたこどもらよりも愕然となった加賀見に渉はつい笑った。 「もう全部見たっけ、見てないゾーンない?」 「満遍なく二回は見て回ったんじゃないかな」 「ほえ~、もうおしまい~」 「隣の遊園地は十時までだったから。寄ってみる?」 「寄る!!!!」 加賀見君、楽しめたみたい、よかった。 自分ははしゃぐ加賀見について回ってじっくり満喫するには程遠かったものの、いつも以上にあほあほテンションで浮かれていた年下の恋人に癒やされて。 渉は夜の水族館を後にした。 遊園地は小規模ながらも煌々とライトアップされて雰囲気満点だった。 家族連れよりもカップル客が多く、レトロなパーク内で自撮りしたりアトラクションを楽しんだりしていた。 特に観覧車は立派で。 加賀見が乗りたがらないわけがなく。 「ほえ~~~!!」 ゴンドラの窓ガラスにへばりついて対岸の港明かりに夢中になっている彼に渉の笑顔は尽きなかった。

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