81 / 84
18-3
「渉さん、すっごいね、けっこー高いし!」
「うん。あ……こんな風になってたんだ、あの迷路、結構複雑なんだね」
加賀見とは反対側の窓に身を寄せ、眼下に広がる遊園地の煌めきに渉はそっと見惚れた。
「観覧車なんていつ振りかなぁ。中学の修学旅行で乗って以来かも」
「修学旅行で遊園地?」
「うん、地方のテーマパーク……わぁ……綺麗だね……メリーゴーランドもジェットコースターもキラキラしてる……広くて色んな乗り物があるところもいいけど、こういう遊園地もいいよね、」
「渉さん」
ゆっくり上昇していくゴンドラの中で夜景に夢中になっていた渉は目を見張らせた。
反対側にいたはずの加賀見がいつの間に真後ろに接近していた。
ぎゅっと抱きしめられて。
イタズラっぽく囁かれた。
「キスしちゃう……?」
不意討ちの抱擁とお誘いに渉は一気に逆上せてしまう。
「な、何言ってるの、加賀見君……ここ外だし、今だって、他の人に見られたら」
「もうすぐ一番上だから」
「えっ……あ、ほんとだ……」
「他の人には見られないよ? だから、しよ?」
自分には縁がないと思っていた、まさかの観覧車キス。
ぐいぐい強請る加賀見に、想像以上にときめく幻想的な光の群れにそそのかされて、渉は……乙女みたいに頷いた。
「ありがとうございましたー足元お気をつけてー」
観覧車から降り立った二人。
「おなかへったー、何食べよー、帰りのバス間に合うかなー」
「……」
「明日も明後日も休みだー、何しよー、渉さーん」
「……」
「渉さん?」
出入り口のゲート前、返事をしてくれない渉に加賀見は首を傾げた。
俯きがち、いやに猫背になって歩いていた渉は……レンズ下で否応なしに濡れてしまった双眸と拭ったばかりの唇で平然としている恋人を非難した。
「加賀見君、あ、あんな……もっと軽いモノかと思ってたのに、あんな……あんな……」
ともだちにシェアしよう!