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第16話
最後にちゅうと先端に吸いついてから口を離す。
「ありがと、吉成」
「ん」
ぺろと下唇を舐めて頷いた。
間宮も両手でオレの頬を包み、唇にちゅっと可愛らしいキスを落としてくる。そのまま伸びてきた手にTシャツを脱がされ、肩を押されてごろんと仰向けに転がされた。同じように腰元に顔を伏せようとする間宮を遮って。
「こっち、こっちして」
捕まえた指を後ろに導く。
「ふふ、かわいい。かわいすぎるよ吉成」
すぐさまたっぷりとジェルを乗せた長い指がぬくりと深く潜り込んでくる。ぬるぬると出し入れされるともうたまらない。恍惚として目の前の男に縋りついた。
「うあっ、ああっ、間宮、間宮……!」
「吉成」
ずしりと張りつめたものをぐいぐい押しつけられ、期待に背筋が震えた。一度放出しているのに変わらない逞しさに感嘆する。
「熱……すご、おっきい…」
「当たり前」
ちょっと自慢げな声に頬が綻んでしまう。
いつもならαだからと捉えるところを、間宮だから、と素直に受け止める。
そう、間宮がオレを相手にしているから――。
「ん…っ、んああああっ!」
ぐぐっと体重をかけて貫いてくる長大で熱いものに思考が乱れていく。苦しくて、たまらなく気持ちよくて、つんと鼻の奥にこみ上げてくるものがある。
「ああっ、あ、琉……!」
大きく仰け反ってぎゅうと後ろを締めつける。びくびくと腰が痙攣して、触ってもいない前から白濁が溢れ出る。
「あっ、そこだめ……っ、琉、琉…!琉くん…っ!」
「吉成……!」
吐息の重なる近い距離からぬるりと唇に舌を這わされれば、オレも飢えたようにすぐさま食らいついた。
「愛してる…っ」
間宮の声も熱く濡れていて目眩がする。
あとはひたすらに溺れた。
いつもなら息が止まりそうなくらい激しく愛されるのに、今日はオレが気持ちいいと感じることしかされなくて、ただひたすら間宮に溺れた。
「…琉くん…」
だからつい懐かしい呼び方をしてしまう。
気持ちがあの頃に引きずられて、素直に間宮を受け止めるのは、気持ちよくて、しあわせで、ただうれしかった。
***
―――翌朝。
背景に花が飛びそうなほど上機嫌な間宮と、気恥ずかしくてまともに顔を上げられないオレの間では、いつも以上に会話が少なかった。
「αだからやっぱりうなじに執着があるのか…?」
鏡に映った首筋には隠せないほどくっきりと痕が残っている。
「そうかもしれないけど、でも吉成、首筋弱いよね?」
音もなく背後に立った間宮から返事があり、思わず真っ赤になって飛び退いた。
「な…っ、ま、間宮……!」
「もう琉くんって呼んでくれないの?」
「よ、よば、呼ばない…!!」
ぶんぶん首を横に振る。甘い声でねだられても無理な相談だ。忘れてほしい。頭が爆発しそうだ。なのに人の気も知らない間宮は、腰に腕を回して側頭部にぐりぐりと頬を寄せて甘えてくる。
「仕事行くの?休んでもいいと思うよ?」
「いやだ、行く」
そう?と首を傾げた間宮と連れ立って部屋を出て、その日は間宮の方の送迎車で会社まで送ってもらうことになった。
運転席に座るのは、昨日も間宮の後ろに控えていた側近たちの一人だ。
基本的に間宮の近くにいる男性はαが多く、女性はβが多い。なにかあっても間宮を止められるように、そして、不用意に間宮を刺激しないようにと配慮されている。
彼はオレたちを見るや微笑ましそうに目を細めた。つやつやした間宮の顔ですべて悟ったのだろう。…恥ずかしい。
「おはようございます」
ビルの駐車場に着いてからは、いつものように直通の専用エレベーターでフロアへと上がる。
何度拭ってもまだ唇が濡れているような気がして堪らない。…恥ずかしい。
「おはよう、瀧くん」
まず挨拶を返してくれたのは上司である男性社員で、彼もαだ。さっと視線を走らせると、まるで砂を吐くような顔をする。
「やっぱりなあ…。すごい愛されてるじゃん、オレは信じてないからね?」
「え?」
ぽん、と軽く肩を叩かれる。
ちらりと首筋に目線を落とされて、何を見られているのか気付き、オレは首まで真っ赤になる。慌ててトイレに逃げ込んだ。
「くそっ、間宮の、ばか……!」
結局、隠すことも忘れてそのままだ。
いまさら絆創膏もおかしいし、化粧で隠したくても道具がない。
苦し紛れに髪を引っぱったり襟を引き上げたり。
これはもう潔く諦めるしかないな、と息をついたところで入口の扉が開いた。
あ、と思ったのは、それが昨日のΩの男性社員だったから。
清潔そうな細身のスーツに目立たない色合いのネックガードがアンバランスだ。
彼はオレに気付くと、ふっと目元を緩める。
「なにそれ、Ωの真似事?」
甘やかな声色ゆえ、悪態をつかれたことに対する理解が一瞬遅れた。え?と振り返ったときにはもう背を向けてしまっている。
Ωの真似事だって――?
ふつふつとこみ上げてくるのは怒りと不快感で、Ωに対する心象がまたひとつ下がる。
相手が間宮だから、αだから、そんな表現をされるのか。どうせ隠せやしないキスマークなんてどうでもよくなり、さっさとトイレを後にした。
ところが自分のブースに戻る前にまたしても声をかけられた。
「瀧くん、副社長が呼んでたよ」
「はい。わかりました」
相手は少し話をしたことのある女性社員だった。
彼女は「ふふっ」と照れたように笑う。
「おめでとう。わたし応援するね!ずっとお似合いだと思ってたんだ」
「え?ありがとうございます…?」
一体なんのことだろう。
間宮と関わりがあることは昨日で知られてしまっただろうが、ずっと、と言われるほどのことが何かあっただろうか。
首を傾げながらとりあえず社長室へと足を向ける。
「おはようございます」
ノックして声をかけると入室を促されたのでドアを開ける。そこで見たのは、困ったように笑う誉さんと、眉間に皺を寄せて頭を抱える祐吾さんの姿だった。
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