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第2話

 清一郎はベッドに座ると、薄手のニットカーディガンを脱いだ。すぐさま瑞樹がそれをハンガーにかける。 「勝手に合い鍵を作るなよ」ため息をつきながら言った。  瑞樹は愛らしく首を傾げる。 「よかれと思いまして」  ああ、また、そう言うのか。清一郎は再びため息をついた。  瑞樹はいつもこうだ。よかれと思って、と言い、望んでいないことまでしてくる。  こうして全裸で出迎えてくるのも、瑞樹がよかれと思って勝手にやっていることだ。雇ってもいないのに店を手伝ってきて、報酬を受け取らない。いつの間にか家に上がり込んでくるようになり、頼んでもいない家事をしている。  最初はそれを健気だと思った。出会って半年後に瑞樹から、実はゲイなのだと打ち明けられ「ノンケだとはわかっているがそれでも諦められないので付き合ってほしい」と告白をされたので、余計にそう感じた。きっと、好きになってほしいから、こうして健気なアピールをしているのだ。清一郎はその姿に絆された。  付き合おうか。そう告げれば、瑞樹はそれはもう嬉しそうに微笑んだ。夢のようだ、と清一郎へ飛びついてきた。「これで対等なのだから、やりたくないことを無理にしなくてもいいんだぞ」と告げたら、瑞樹は呆けたような表情を浮かべた。その表情の意味は、半同棲状態になり、はっきりとわかった。  瑞樹は人に尽くすことを生きがいとしているようだ。 「あのなぁ」清一郎が眉を顰める。 「ああ、そういえばシコティッシュ。ベッド脇に溜まっていたので片付けておきましたよ。ふふ、僕がいるのに、オナニーが止められないなんて……可愛いですよね、あなた」  花が綻ぶような笑みを見せられ、少々喉が詰まる。 「その、シコティッシュって言い方はよせよ」 「オナティッシュの方が好みです?」 「普通にゴミと言えって」  瑞樹はくすくすと、楽しそうに笑う。 「ねぇ、清一郎。精液をティッシュに食べさせるくらいなら」彼の声が僅かに低くなる。自らの唇を指で撫でながら、瑞樹はベッドに上がった。「僕の中に注いでください。奥まで、いっぱい……零れてしまうくらいに」  取られた手を胸元に誘導される。薄桃色の蕾は誘惑をするよう微かに震えていた。  清一郎の喉がごくりと鳴る。駄目だ。距離を置こうとしているのに、触れてはいけない。理性はそう訴えてくるのに、肉欲は素直に頭をもたげる。じわじわとした熱が下半身に集まってきた。  瑞樹は唾液の滴る舌を艶めかしく突き出した。目の前でそれをぬらぬら揺らされ、清一郎の理性が吹き飛ぶ。瑞樹の後頭部を掴んで顔を上げさせ、開いたままの唇にむしゃぶりついた。  ああ、やってしまったと、微かに聞こえる心の声へ、清一郎は蓋をした。  舌を絡ませたら、瑞樹の淫らな喘ぎ声が口の中に響いてくる。胸がざわめいた。間近に見る彼の顔は、うっとりと緩んでいる。赤らんでいる目元。閉じている切れ長なふた重まぶたは、たまにひくりと痙攣する。  どこもかしこも、甘い。清一郎の息がどんどん上がる。じゅるじゅる音を立てて唾液を啜ると、瑞樹の腕が後ろ首に回ってきた。愛しげに抱きしめられ、清一郎はたまらなく昂ぶる。

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