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第5話

「んんっ、ああ、美味しい……清一郎。僕、上手でした?」  瑞樹は顔を上げ、妖艶に微笑んでいる。赤い唇が精液で汚れていた。  こうしていつも、相手を気持ちよくさせようと必死になる瑞樹が、妙に哀れに感じる。ただ、その心も、今見ている壮絶な美貌の前では欲望と化してしまうのだ。  清一郎は足と頭の位置を逆にすると、瑞樹を抱きしめる。自らの精液が付着した唇にむしゃぶりつき、胸の蕾を指で転がせば、彼の舌が嬉しそうに絡んできた。  唇を味わいながら、彼の全身を羽で撫でるようなタッチで撫で回す。内腿を指でなぞったら、瑞樹は恍惚とした吐息を零した。 「ね……清一郎。あなた。この間、インターネットでアダルトビデオの広告を眺めていましたよね」  瑞樹が掠れた声で言った。  嫌な予感を覚える。  瑞樹はベッドから降りて、その下に手を差し入れた。  何を引きずり出すのかを見守れば、彼が手にしたのはコンビニでよく使われる白いビニール袋だった。  ベッドに戻った瑞樹は、愛嬌のある笑みを浮かべる。 「これを被った女優が、犯されるビデオの広告を……ね?」  清一郎は頭を抱えたくなった。嫌な予感は的中だ。止める間もなく瑞樹は、ビニール袋を頭からすぽりと被る。 「興奮するのでしょう?」 「しない。しないから。そんな趣味はないよ」 「嘘。魅入っていた顔、僕はこの目で見ましたよ。ほら、正直になって。あなたがどんな性癖をもっていても、僕なら応えられますから」  ビニール袋で瑞樹の顔は隠れているが、その下に笑みが広がっていることは安易に予想できた。強い苛立ちが清一郎を襲う。あれだけ気をつけてきたのに。瑞樹の前で何の気なしに言葉を放てば……放たなくとも、そういう何かを察しさせたら、身勝手な健気さを見せてくるとわかっていたのに。己の迂闊さへ歯を食いしばる。  本当に違うのだ。ただ、珍しさからそれを眺めてしまっただけである。そう告げようとした口が、じわじわと閉じた。  瑞樹は美しい身体を隠しもせず、ベッドへ仰向けに横たわっている。夢のように長い足。股がゆっくり開いた。そこにある肉杭は清一郎の唾液に塗れ、てらてら輝いている。白く滑らかな肌をした内腿に、それがひと筋伝い落ちた。  異様な光景だと感じた。ビニール袋は瑞樹の呼吸に合わせて伸縮している。白い喉が艶めかしい。  額に汗が噴き出してくる。違う、そんな性癖はないはずだ。自らにそう言い聞かせるが、肉杭はむくむくと頭をもたげてゆく。喉の渇きを覚えた。 「ねぇ……清一郎……」 ビニール袋ががさがさと音を立て、瑞樹の呼吸に揺れる。 「どうですか。興奮、しますよね?」  断定され、否と言えなかった。様々な感情が胸に吹き荒れる。こんなことをしてはいけない。こんなふうに瑞樹を扱うのは間違っている。可哀想ではないか。哀れではないか。

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