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第8話

 精液や汗の匂いが鼻腔に突き刺さってくる。 「駄目?」  わざと、静かな声で清一郎は言った。瑞樹の頭からビニール袋を剥ぎ取り、視線を交わらせてもう一度、駄目? と尋ねる。  いいようもなく美しい、切れ長のまぶたを見開く瑞樹。唇は震えている。 「……っ、駄目、では、ないですっ……っ」大粒の涙を零しながら、瑞樹は掠れた声を上げた。  清一郎は自らの中に、表現できぬ何かを感じた。瑞樹の左右の太腿を掴み上げ、腰を僅かに浮かせさせると、彼に見える格好で肉杭を中にずぶずぶ埋めてゆく。 「ほら、ね? 美味そうに食ってる。まだ足りないって、ひくひくしてるよ」 「ああっ、あっ、捲れてしまうっ、ああっ!」瑞樹の顔が、更に赤く染まった。 「色っぽい。ああっ、瑞樹、可愛い。可愛いよ」  掠れた声で囁きながら、しこりを極まらせた胸の蕾の片方をじゅうじゅうと吸う。むせび泣くような喘ぎ声にますます興奮が煽られた。  抱く身体は上体を大きく揺らしている。肉襞が脈打つように収縮した。 「ひゃぁぁっ、せいいちろっ、あっああっ、っ、んぐぅっ――」  唾液で濡れる唇に貪りつき、声を塞ぐ。太腿を下ろし、瑞樹の肉杭に手をやれば、そこが再び勃ち上がっていたので、キスをしながら笑みが零れる。  喘ぎ、逃げ回る舌を強引に絡め取り、啜り上げる。片手で胸の蕾を転がし、はちきれそうになっている彼の肉杭をぬちゅぬちゅ扱いたら、肉襞が小刻みに蠢き、肉杭を食いちぎらんばかりに締めつけてきた。凄まじい快感に、脳をも蕩けさせるような強烈な痺れが、身体中を駆け巡る。  堪えられない。  清一郎は、瑞樹の胸の蕾へ歯を突き立てた。彼の肉杭を根元から強く扱く。後孔からくちゅくちゅと揉み扱かれる肉杭が、溶けてしまいそうだ。 「はうぅっ、またっ、イっ、イクっ、あっ、あああああっ!!」  彼の甲高い叫び声を聞いた途端、下腹部に精液がぽたたっと飛び散ってくる。すぐさま清一郎は大きく腰を引き、ぱぁん、と音が鳴るほどに打ち付けた。これ以上は進めないところまで肉杭をはめ込み、そこで一瞬の絶頂を味わう。 「っ……ああ、瑞樹……っ、今、わかる? 中に出てるの」 「あぅっ……ふぅぅっ、っ」焦点の定まらぬ瞳は暫く宙を漂うと、こちらに向いた。「せいいちろ……あなたのっ、精液……美味しいでひゅっ……っ」  唇の周りに垂れている己の唾液を舌で拭いながら、瑞樹はだらしのない笑みを浮かべる。  美しい獣。いいや、悪魔だ。  吐精したことにより、頭に理性が戻ってきた。自分は何をしたのか。何ってことをしたのだろう。瑞樹をこんなふうに苛めるつもりはなかったのに。  瑞樹の頭。その横にある、皺がくしゃくしゃに寄ったビニール袋を目で捉えた。これだ。これが引き金だったんだ。望んでいなかったはずなのに、彼の行動に引きずられてしまった。  清一郎は、萎えた肉杭を静かに引き抜いた。追いかけるかのようひくつくそこは、精液をこぽりと垂れ零す。 「すまない。すまない……」瑞樹の前で頭を抱えた。 「……すみません。僕が、悪かったのです……っ」快楽の余韻が残っている声だ。  まさか、詫びられるとは思わなかった。やっとわかってくれたようだ。どれだけ長いこと、それを望んできたことか。少々感動すらしてしまう。  素早く顔を上げると、信じられないほどに美しい顔を見た。涙や唾液で汚れているにも関わらず、その笑みはとても清らかだった。量のある長いまつ毛は微かに揺れている。栗色の髪が、汗で頬に張りついていた。 「ビニール袋……最後まで、被っていなくて。すみませんでした。次はもっと……ちゃんとしますから」  優しい口調で言われたその、内容。  肌が粟立つ。部屋に漂う性的な匂いへ、急に吐き気が込み上がった。 「違う。違う……どうしてわかってくれないんだ」  瑞樹を抱きしめようと動いた手は、宙で止まる。彼が、子供のように無邪気な動作で、きょとん、と首を傾げたからだ。

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