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第5話
GPSで松葉を追ってみれば、思ってもみない状況になった。声をかけただけであんなに驚くとは思わなかった。それに、袋から飛び出した専門書も予想外だった。営業先かどこかで、誰かがまたいらない知恵をひけらかしたのだと思った。
二十年くらい前、虐待されていた子どもが親を殺したという事件――俺の話だ。
松葉はいかにも凄惨な過去を持つ俺の行動をどうにか理解しようとしたのだろう。だが、本を読んでも答えなんてない。
「特別な相手っているだろ。その人のためなら何でもできるって思えるような。映画とかで見るさ……。俺にとっては、お前がそうだ」
「んっ……ぁっ……」
裸に剥いた松葉の腹にまたがり、胸を手のひらで揉む。ヘッドボードに絡めた手錠で両手首を拘束しているせいか、不器用に体をくねらせる。そんな小さい抵抗が小気味よく、薄い肉を寄せたり、尖った乳首を押しつぶしたりを繰り返した。それが松葉に快感を与えていると頭ではわかっているが、その快楽がいかほどのもんなのかは全くわからない。
ただ、誰にも見せないだろう顔を俺に向けるからやめられない。
小町とはセックスしても、こんなに戸惑った目をしていないだろうし、こらえきれない快感に声をこらえようと鼻穴をひくつかせたりもしないはずだ。
生理的な涙を滲ませ、迫りくる絶頂を押さえ込もうと、か細い呼吸を繰り返す。おそらく、出さずにイきたくないのだろう。俺が散々女みたいだと罵ったせいかもしれない。それとも、終わりがないほど続く快感にたえ切れないからだろうか。
「なあ、松葉」
声をかけてもこっちに目を向けない。
ぎゅっと乳首を引っ張った。
「ぅあ、あっ」
「無視するな。こっち向け松葉」
「っん……」
松葉が嫌々顔をこっちに向ける。
普段の凛とした雰囲気からはかけ離れた真っ赤な目に少し垂れた鼻水。
気まぐれで松葉の鼻水を舐めた。
「しょっぱいな」
「……っうるさい」
松葉は腕を引き、そのせいで手錠がガチガチと音を立てる。
「手首、切れるぞ」
「っ抵抗しないから、これを外せ」
「抵抗しないならこのままでも平気だろ」
乳首をつねり、限界まで引っ張った。
松葉が悲鳴に声をつまらせ、喉をさらすように胸を反らせた。少しでも痛みを和らげたいのだろうが、俺は構わず力を入れた。
「っぃ……や、めろ……!」
「明日さ、小町のこと抱けよ」
「な――ぁっ……く」
ぱっと手を離す。つねられた胸の痛みで松葉が体を丸める。小町を抱けと言った瞬間、目に明らかな絶望が浮かび、肌が汗ばんでくる。
「なあ、いいだろ。これ外してやるから」
貞操帯ごと性器を引っ張る。
「っ……彼女は、関係ない。こんなことに巻き込むな」
「別に俺の前で抱けって言ってるわけじゃねえんだ。そんなにビクつくなよ」
俺の考えがわからないのか、睨みつける目に力がない。
「……それなら、どうして……お前に、何か利点があるのか?」
「興味がある。こんなに――」
「っあ、あぅ」
胸の先を軽くつまむと甘い声を出す。
ちらっと貞操帯を見ると、ピクピク上下している。小さな粒に爪を立てると、性器の先端から透明なものが溢れる。
「ゃ、め……っ」
「胸で感じるくせに、どんな風に女を抱くのか気になってさ」
手を離し、首から下げていた鍵を松葉に見せる。
「予行練習だ」
鍵を外し、貞操帯を抜き取ると緩やかに性器が硬くなる。それを軽く握ると、反射的にかクンッと腰が動いた。
「ここは男だな。ほら、腰振ってみせろ」
「っ……お前はこれがっ、楽しい、のか……?」
じわじわと松葉の肌が赤くなる。
「俺の手を使ってお前がオナるんだぞ。楽しいに決まってる。滑りが悪いならローションを足してやってもいいぞ」
「っふ……」
手のひらで先っぽを触ると先走りがべっとり手についた。
「まあ、こんだけ感じてりゃローションなんていらねえか。早く腰振ってみせろよ」
松葉は声を詰めて引き締まった腰を無様に振り始めた。最初は動きが小さかったが、段々大胆になってくる。腰振りのじゃまにならないよう、松葉の腹に座るのをやめて膝立ちになった。
しなやかな足を曲げ、ぱちゅ、ぱちゅと俺の手に腰を叩きつける。
「はっ……はっ、ぁ……はっ」
息遣いも普段とは違う。まともに前でイくのは久しぶりだろう。その期待からか、徐々に腰の動きも本格化していく。
ここで手を離したらどうなるだろうか。
射精の期待で目を閉じ、一心不乱に腰を振る松葉を見つめた。手の中の脈動でイきそうだとわかる。
「っは……ぁ、い、イく、ぃあっ――」
松葉が射精に合わせ激しく腰を動かしたところで、手を離した。だが、それを理解できず二、三回、情けなく腰をカクカクさせ、信じられないものを見る目でこっちを見た。
「ぁ、な……っん、で……」
「何でって。松葉、婚約者がいるのにこんなところで子種無撃ちしていいのか? しかも、男の手に擦りつけてイくつもりか? 小町のまんこが泣いてるぞ」
一瞬、松葉の目に怒りが燃えるように現れたがすぐに後悔や羞恥に消されてしまう。
「くそ……」
「後で爪整えてやる。小町の体を傷つけたら大変だもんな? 俺が整えた爪で小町を抱くんだ」
コンドームを取り出し、松葉によく見えるように袋を切り取った。
「明日もちゃんとこれつけろよ」
松葉の性器を刺激しながらつけた。さっき射精できなかったせいか、ぴくぴくと竿が揺れ動く。
「四日も五日も熟成させた子種じゃ、一発で妊娠させちまうかもな」
根本までぴっちり覆い、指先で下に押し倒す。起き上がりこぼしのようにぶるんと戻って腹を打つ様はちょっと笑えた。何度か繰り返すと、先走りが液溜まりを埋める。
「っ、ぅ……」
「イきたいか?」
黙り込む松葉を見て、性器を擦った。
「っあ! や、め……っ!」
「イきたいのかって聞いてんだよ」
「は、ぁっく……あっ、あ……」
擦り続けると切なそうに眉を寄せ、腰を捻る。
「松葉」
「くぅ………ぁ」
ガクガクと松葉の腰が震えた。
手を離したせいでイき損なった性器が頭を振る。
「あぁ……っ」
切なそうな声。イきたくて、頭の中が空っぽに違いない。
「イきたいなら、いい加減に頼むってことを覚えないとな?」
松葉の目がぼうっとしている。辱めを受けたことで頑なに反抗的だが、ここまでくれば本心など手に取るようにわかる。
胸が呼吸に合わせて動き、その振動が跨った俺に伝わってくる。手のひらを心臓の辺りに置けば、押し上げるように力強く鳴っているのもわかった。
イきたくてもイけないもどかしさで頭が一杯なくせに、プライドが強請ることを邪魔しているに違いない。
俺が性器に手を添えると「あっ」と女のような声を出す。
「はは……。そんなに寸止めが気持ちいいのか? 変態だな」
「ち、がっ」
「違わないだろ。ほら、またやるぞ」
到底、達せないだろうというくらい軽く握っただけにもかかわらず、手を動かすと松葉がいやらしい声を上げる。もう我慢できないらしく、腰まで揺らめいていた。
「っあ、や……ぁ、あっ、ンん……イく、ぁ」
「ほらっ、離すぞ」
手を離すとグンッと松葉の体が波打つ。
「ぉ、あ……っ」
見開かれた目から涙がこぼれ落ちる。
それを拭って唇を撫でた。
「ほら、言わないとまたやるぞ」
反対の手で性器を握った。
松葉がガチャガチャと枷を鳴らす。
「っんぁ……いっ、言う……言うから……っや、め」
「言うなら早く言えよ。俺はいくらでも待てる」
性的興奮に急かされることがない俺と違い、松葉は汗をかき、どかどか心臓を暴れさせている。
「ほら、松葉」
俺は立ち上がって足の間に移動する。
松葉に見えるように手を筒にして上下に動かす。
「言えよ」
「い……て……」
「聞こえねえ」
「あうぅっ!」
性器の先端をひしゃげるほど強く指で擦った。
松葉がほとんど泣き出すように言った。
「い、イかせて、ほし、い」
濡れて震える唇で松葉がおねだりを紡ぐ。
「頼む……」
「お願いします、じゃねえの?」
「っお願い、します……!」
待ちきれないのか、性器が震える。俺は指先でコンドーム越しに性器をなでた。
「まあ、及第点ってやつだな」
新しいゴムを出して手につけた。中指と人差し指を入れ、松葉のアナルに押し当てる。
「っ中原……なんで、そこ……」
「ここでもイけるだろ? ちゃんと出させてやるから安心しろ、よ」
ぬぷっと指を入れる。馴染みのある温かい肉壁を撫で回し、松葉が嫌がる場所の近くで指を止めた。
「ぁ……っ、あ……」
ただの内臓のくせに、指をしゃぶるように蠢いている。その感覚が何とも言えない妙な満足感を呼ぶ。
「ほら、イけ」
十分に熟した前立腺を叩く。
たったそれだけのことで松葉の体が強張った。指が締め付けられる。
「っあ、ああぁっ……!」
嬌声と共に液溜まりに白いものが吐き出された。勢いはないが、量はかなりのものだ。
「くっ……うぅあ、あっ……はっ……は、ぅっ……ぁ!」
力み、筋肉が浮き出た腹。茂み近くには青筋まで出ている。
気持ちよさそうだった。
締め付けの中でこれでもかと言うほど、前立腺を叩く。
俺はそこを嬲られても感じなかった。ただ痛かった。どこもかしこも、痛くて、悲しかった。
「っや、だ……!」
松葉がかすれる声で叫んだ。
「ひっ、ぁ。ぐ……ぅうあっ、出ない……もっ、出ない、からぁ……ぁあっ……!」
悲鳴に似た声でやり過ぎたと気づく。
指を抜くと松葉が声もなく不気味に体を痙攣させた。不安になるほど続いたそれが落ち着くと、詰めたような呼吸が徐々にゆっくりと落ち着いていく。
気を失ったかのように眠り始めた松葉の顔を眺めた。涙や鼻水でぐちゃぐちゃの顔。
手錠を外してやり、濡れて塩っぽい口にキスをした。意識を失った口は嫌な男に口づけされても文句を言わない。
精液が溢れて外れたコンドームを拾い上げ、ゴム臭い松葉の精液を飲み込む。
喉がジクジクしてざらついた。
松葉はきっとわかっちゃくれない。これが俺のセックスだということを。
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