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第2話 出逢い ~賢一side~
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大学時代は、バイトとバンドと勉強の掛け持ちで、超忙しかった記憶しかない。
まさやんは理工学部、俺は経済学部でそれぞれ頑張っていた。
まさやんは器用に三足のワラジを履きこなし、有意義な大学ライフを謳歌しているのに比べ、俺は大学をサボってばかりで、バンドとバイトばかりやっていたんだ。
結果そのツケが年末、クリスマスプレゼントとして教授から、ごっそりと渡されるハメになろうとは――
「他の学生は3種類のレポートだが、君は7種類ね」
〆切クリスマスまでと、言い渡される。(明らかにワザとだよ)
バイトで稼ぎ時の年末が、このレポート作業で見事パーになった。全て自分の行いが悪いのが分かっているだけに、んもぅ後の祭りとしかいいようがない。
たくさんの資料を小脇に抱え、行きつけのコーヒーショップに向かった。中学高校時代なら、まさやんに泣きついてたトコだが、学部が違うだけに無理な話。バンド仲間の先輩方にバレたら、「何やってんだよ、お前は!!」と叱られた挙句に、間違いなく袋叩きに遭うだろう。
半泣きになりながら、格闘すること1時間。正直、一向に進んでいなかった。真面目に授業に出ていれば、こんなに悩まなかったのにな、トホホ……
そんな後悔しまくりの俺のテーブルの隅っこに、上品な陶器に入れられた飲み物が置かれる。
「あの、頼んでませんが……?」
それを置いてくれた細身のボーイに不思議顔して告げると、ふわりと柔らかく微笑みながら、
「考えてばかりいても、進まないよ。甘い物でも飲んで、リラックスしないと」
俺の顔を見つめて言ってくれたのだが――そんなことをしてもらう義理はない。バイトを休んでいるため金欠なので、小さな出費すら削りたいというのに、必要のないお節介をしてくれて。
「申し訳ないですが、甘い物は苦手なんです」
俺の手元を覗き込み、目を細めながら苦笑いをしたボーイ。
「経済学部の、谷村直樹教授からの宿題だろ?」
ずはりと指摘されたその台詞に驚いて、声を出せずにいると、
「俺も経済学部だったんだ。君と同じように目をつけられて、レポートを提出したものさ」
そう言って資料とペンを手に取ると、勝手に何かを書き込み始めた。
ポカーンとしながら、その状況を見つめることしか出来ない。
ボーイの胸元に付いてる名札を見ると(中林)と書いてある。
切れ長の目元に通った鼻筋、さくらんぼのような綺麗な色した唇。その整った顔立ちを彩るかのような、サラサラな長めの黒髪が印象的に映った。身長は少し低め、165センチ前後な感じ。
ぼーっと見つめていると、中林さんがこっちを見る。唐突に視線が合って、急にドギマギする不審な俺に、はいと一言添えながら資料を手渡してくれた。
「線を引いたところを中心に調べて、きちんとまとめれば、それなりのレポートが出来るはずだよ。しっかり頑張れ、泣き虫くん」
そう言って、持ってきた飲み物を下げようとしたので、慌ててその手をぎゅっと握りしめ、強引に引き止める。
「折角、作ってくれたんですから飲みます……」
「そのココア、甘さは控え目にしてあるから。いつもコーヒー、ブラックだよね?」
俺の手をやんわり振り解き、その場を立ち去ろうとする彼に思い切って、声をかけてみた。
「よく俺がブラックっていうの、ご存知ですね?」
「髪の長いお友達と一緒に、よく来ているだろ。君達ふたり、結婚目立ってるから」
心臓を鷲掴みするような微笑みを残し、颯爽とカウンターに戻ってしまった。
髪の長いお友達は、まさやん。ライブの練習前によく立ち寄って、話し込んだりしているのだ。
ドキドキしながら、手に持っている資料で顔を隠し、こっそりと接客している彼を見つめた。
優しい微笑み――明るい声での接客する態度にに、更に胸が高鳴る。
彼のお陰で、期日内にレポートは完成。後日きっちり、お礼を言ったのだが――
「いつも来店して戴いてる、お礼みたいなものですから」
そんなありきたりな一言で終了されたせいで、それ以上の距離を縮めることができなかったのである。
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