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第4話 出逢い~叶side~

 俺が彼に出会ったのは学生時代からバイトしている、某コーヒーショップでの社内コンペの企画賞を戴き、社員として迎えてくれることから始まった。  4月からの新入社員を束ねる上司として、水戸 史哉(みと ふみや)部長が挨拶してくれる。  新入社員の中で、見目麗しい水戸部長の話題はもちきりで、女子社員がいろいろ盛り上がっていた。  そんな華やかな女子社員と話をせず(他の奴等は、彼女を作ろうとして必死だった)俺は真面目に、仕事をこなしていたんだ。  他の新入社員の輪に積極的に加わろうとしない俺を、なぜか水戸部長は気にかけ、よく話しかけてくれて。  物腰の柔らかい話し方、適度な距離感や仕事の姿勢など、始めは憧れから興味を持ったと思う。それに、憧れ以上の好意を抱けなかった。だって彼は既婚者だから。  人様のモノを奪い取る考えは、全くなかった。なのにいつからこの考えが、変わってしまったのだろう。  いつだったか残業していたある日、不意に話しかけられたのが、そもそもの始まりだった。 「遅くまで、頑張りすぎじゃないか?  他の人は帰っているのに」 「これをまとめ上げたら帰ります。すみません」  手際よく仕事をこなせていない分、前倒しで仕事をしているのだ。  資料からパソコンの画面を見ようとしたら突然、水戸部長のアップがあって、かなり驚いた。 「ちゃんと食べてないだろ、顔色が悪い」  そう言って俺の下まぶたをめくり、勝手に確認する。部長の手の温かさに、妙にドキドキした。 「ほら、貧血気味になってるじゃないか。普段、何を食べてるんだ?」 「適当に、つまめる物を食べてます」 「つまめる物って、酒のツマミじゃあるまいし(笑)早くそれ終わらせろ。俺の自宅で食事していけ」  そう言って隣の席に座って、待っていてくれた。  俺がNOっても多分、無理やりにでも連れて行くだろうなぁと思ったので、あえて反論せず、そのまま仕事を続け、何とか終わらせる。  部長の自宅は職場から歩いて、5分ほどの場所にあった。  マンションの7階、小さすぎず広すぎずな部屋の造り。俺はきょろきょろする――奥さんは、どこにいるんだろう?  挨拶しなきゃと思っていると、手に缶ビールを持った部長が、そっと近付いてきた。 「これでも呑んで、座って待っててくれ」  そう言って、奥にあるキッチンに行ってしまう。 「あのぅ、奥さまは?」 「現在別居中。もうかれこれ1年になるかな」  何かを刻みながら、部長は答える。別居の理由を本当は聞いてみたかったが、それはプライベートなことなので、当然聞けずじまいだった。  手渡された缶ビールをテーブルに置き、料理をしている部長の様子を窺う。仕事をしているときと違って、とてもリラックスしていて、何だか楽しそうに見えた。 「何か、お手伝いすることはありませんか?」 「中林くんは今日、お客さんなんだから座っていなさい。いつも頑張り過ぎなんですよ。俺にまで、そんなに気を遣うことはないから」  苦笑いしながら、フライパンを器用に操る。20分後、俺の前にはレバニラ炒め等、4品の料理がテーブルに並べられた。 「水戸部長って、料理出来るんですね。しかもどれも、すごく美味しいです」 「だから、奥さんに逃げられたのかもって思った?」 「そそそ、そんなこと、思ってないですよ////」 「中林くんは、隠し事出来ないタイプだね。わかりやすくて、いい」  そういうと、頭を優しく撫でてくれる。その仕草にくすぐったくて、首をすくめた。 「小さい気遣いが出来るから、接客業に向いているんだね。だけどその気遣いのせいで君の人間関係が、上手くいかないんだろうな」  俺の目を見ながら、水戸部長が指摘してくれたのだが。その視線に耐えられず俯くと、急に抱きしめられた。 「水戸部長っ////」 「そんなに突っ張んないで、もう少し周りの人に頼りなさい。きっとみんな、君の味方になってくれるから。俺もできることがあれば、率先してサポートするし」  そう言って、背中をポンポン叩いてくれる。まるで、小さい子をあやす様に。  しばらくしたら自然に、緊張した体の力が、ふっと抜けていく感じがした。  小さい溜息をついて顔をあげると、心配そうな目をした部長の視線と絡まる。そんな視線から目を離せずにいると、更にぎゅっと抱きしめられてしまった。  その安心出来るぬくもりに目を閉じると、唇に温かいモノが重なってきて――  このとき会社とか自分の立場とか、まったく頭になかった。ただ、このぬくもりをどうしても手離したくなくて、思わず縋りついてしまった。  この日を境に俺は、水戸部長の愛人になったのである。

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