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第8話 きっかけ~賢一side~3
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『今日バイトでドジって、店長に叱られちゃいました。お仕事お疲れ様です、おやすみなさい。賢一』
上記のようなメールを、1日最低でも1回は送信している俺。
はじめてくれたメール同様に、叶さんの返信は素っ気ないものだったけど、それでも必ず返信してくれた。
メアドを教えたという責任で、返信しているだけかもしれないけど、嬉しさは隠しきれない。
そんなやり取りが、10日ほど続いたある日。
いつものように、くだらない内容のメールを送信したら、思いがけない返事がきた。
『今日店まで、迎えに来られるだろうか?』
読んだ瞬間、スマホを持つ手が震えてしまう。うおぅ、これってお迎えメールじゃないか!
鳴かぬなら、鳴くまで待とうホトトギス作戦成功。待った甲斐がありました。
早速、二つ返事の返信しようとポチポチ。
(ん? ……待てよ)
お迎え→自宅まで送る→お礼をしたいからど~ぞ→自宅にお邪魔する→そのまま――
そのままの後が、まさやん的な考えになってしまった、イカンイカン。
相手は叶さん、そんな上手いことがいくはずがない(断言!)
何かないかな――そう思ったときに、目の前を谷村教授が通りかかる。
そうだ、閃いた!
『お迎えは大丈夫です。お迎えついでなんですが、授業で分からない箇所があるので、教えてもらえませんか? 賢一』
ポチっと送信( ̄ー ̄)ニヤリ
浅はかな考えだが、もしかしたらもしかする。
数分後、返事がきた。
『背に腹は変えられない、閉店10時だから宜しく』
ズズーン、俺って一体……
毎度のことながら、叶さんの返信ってば、わざと俺を凹ませているんじゃないかという内容が多い。心がこれでもかと、弄ばれてる気分である。
胸中複雑だけど、頼られていることには代わりはない。
そう考え、凹む気持ちを払拭し、メッセージの新規作成をした、相手はまさやん。
『今日叶さんと帰る事になったので、バンドの練習パス。イェーイヽ(´∇`)』
送信っと。
叶さんと帰れる、何を喋ったらいいかな。頭の中は、今夜のことでいっぱい。
スキップしたいのを堪え、小腹が空いたので売店へと向かった刹那、スマホが震える。
『現在のお前、間違いなくヤバい顔をしているに違いない。顔の筋肉を引き締めるべし。帰り道、襲われないように注意しろよ(笑)』
まさやんからのメッセージを読んだ瞬間、思わず顔を触ってしまった。そういえばこの間も、ゲッと言われたんだった……
売店へ寄る前にトイレに直行、鏡の前でしっかりとチェックしてみる。
うん、大丈夫!
だけど叶さんの前に出たときに、下心丸見えの、だらしない顔していたらどうしよう。
さっきから赤くなったり青くなったり、忙しい俺。
整える必要がない短髪に、手櫛を通してトイレから出る。
『帰り道、襲われないように注意しろよ(笑)』
叶さんが、そんなことをするわけがない←やはり断言
襲いたいのは、俺の方なんだから……
この間ライブハウスで一瞬だけど抱きついたときの、守ってあげたくなるような華奢な体、ほのかな石鹸の薫り。
思い出すだけで、ポワーンとする。
……っとヤバい、顔の筋肉引き締めなければ。
大好きな叶さんのことを考えただけで売店へ行くまでに、何度も顔を変形させてしまったのである。
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