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第13話 きっかけ~叶side~3
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彼等の演奏が終わり、舞台から降りていく姿を確認してから、自分のカバンからメモ用紙を取り出して、メアドを記入した。
(これくらいの、ご褒美があってもいいか)
口元で笑ったその瞬間、肩で息を切らした彼が走ってやって来る。
「あのぅ、どうでしたか?」
頬を紅潮させて、おずおずと訊ねるその様子に、こっちにまで緊張感が伝わってきた。
彼に名前とライブの批評を告げると、突然抱きつかれ、困り果てるしかなくて――ライブの熱気よろしく火照った体に驚いて、つい殴ってしまった。史哉さんとは違う体温に、えらく戸惑ってしまった自分。
戸惑いを悟られないよう、わざと不機嫌になり、彼の名前を聞いてみる。
「山田 賢一って言います……」
――山田 賢一くんね。
おどおどしている彼に皮肉を込めて、名は体を表してないと言ってやった。
その言葉に項垂れてる彼に、例の紙切れを渡す。思いっきり下げたテンションのところから、目に見えるご褒美を出されたせいか、途端に機嫌が直る。その立ち直りの早さに、思わず舌を巻いてしまった。
用事があるからと言ってライブハウスを出る俺を、彼はいつまでも見送ってくれたのだった。
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