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第14話 きっかけ~叶side~4
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待ち合わせの場所に、少し早めに到着。目的地の着前に、彼からメールがきていた。
『先程はわざわざライブを見に来て頂き、有り難うございます。とても嬉しかったです。髪型も叶さんが言う通りに、短くカットしたんですがどうでしたか? 賢一』
てっきり史哉さんからのメールだと思って、慌てて見たのにな……残念に思う気持ちを払拭すべく、大きなため息をついてやり過ごし、彼のことを考えてみた。
名前を教えない、ずぼらなところがあるくせに、こういう律義なトコもあるんだ。
変わったコだよなぁと思いながら苦笑し、メールの返信をする。
見た目は、ワイルドな感じがして良かったと思ったけど、やはり史哉さんからのメールでないことに、落胆は隠せない。気落ちしたまま書いたので、いつも以上に短い文面になってしまう。
『思っていたより、髪型似合ってた』
送信ボタンを押した瞬間、唐突に目隠しをされた。
「どこの誰に、メールを送っていたんだい?」
「史哉さん……」
目隠しを外された途端にそっとキスをされ、びっくりして体をぐいっと押し戻す。男同士ということもあって、人の目を気にするクセが、体に染み付いているから。
「唇が冷たい、かなり待たせた?」
俺が押し戻したことを責めず、わざわざ心配をしてくれる。
「……ここに来るのに、少し歩いたから」
「で、どこの男にメールしてた?」
逃げられないようにするためなのか、ずいっと顔に近づいて訊ねる。
「ただの、大学の後輩です……」
「ふーん。じゃあ、行こうか」
ふいっと背を向けて歩き出す史哉さんに合わせて、俺も歩く。たまにこうやって、嫉妬する史哉さん。でもあまり、深く突っ込んでこない。逆にそれが、寂しくもあり悲しかった。
徒歩で数分歩いた先に、隠れ家のような雰囲気を漂わせたバーが目に留まる。店の中に入り、カウンター席の隅にふたり並んで腰かけた。
「今日の服装、カジュアルな感じだな」
「こんなにお洒落なバーなら、もっと良いのを着てくれば良かった……」
かっちりしたスーツだとライブハウスに行きにくいから、適度に砕けた感じの服装をしていたのだ。
「叶は、何を着ても似合うよ」
そう言って、髪を撫でてくれる。外でそういうのをされるのは、正直落ち着かない――眉根を寄せて、抗議の眼差しを送ってみせた。
「そんな顔する必要はない。会社の奴等はいないし、周りも俺たちのことなんて見ていないから。大丈夫だよ」
「でも……史哉さんの自信、アテになりません」
俺が苦情を言うと、アハハと笑って誤魔化す。
「今日の叶は、何だか甘え上手だな。このままお持ち帰りしていい?」
耳元が弱いのを知ってて、わざとそこで喋る。甘え上手……賢一くんの影響なんだろうか。
「ごめんなさい、明日早いんで無理です」
「そうか、お互い忙しい身だな」
そう言って、出されたばかりのグラスのお酒を呑み干す。
「こうやって一緒に、美味い酒が呑めるだけでも、良しとしなきゃだな」
肩に手を回してくる史哉さんに、ぎこちない笑顔を返した。
――本当は、明日早いのは嘘……ずっと一緒にいたら、何かマズイ事態になるかもしれないと、咄嗟に嘘をついてしまったのだった。
敏い史哉さん、俺の変化に少なからず気がついたから、いつも以上に積極的に体に触れてくるのかもしれない。それとも、嫉妬の延長線上の行為なんだろうか。
久しぶりの逢瀬だというのに、いろいろ考え込んでしまって、心から楽しむことができなかった――
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