21 / 49
幸せのひととき
「やっと見つけた」
大学のカフェスペースでボーッとしている俺に、声をかけてきたまさやん。
いつもなら俺から、まさやんにアクセスしているので、わざわざ苦労して捜し出してくれたらしい。
「お前俺がいる所に、いつも湧いて出てくるのに、今日はどうした?」
心配そうな顔して、向かい側の席に座る。
「昨日のお迎え中に何かドジでもして、思いっきり振られたとかか?」
「いきなり、口封じされた……」
「口封じって、殺されそうになったのか?」
「殺されそうとかじゃなく、まんま口封じ……」
そうなのだ、俺が突っ走って喋ってるのを止めるべく口封じされた。しかも俺の想いを完全にスルーして、家からさっさと追い出す始末――
「何があった?」
こちらを慮り、そっと聞いてくるまさやんをよく見た瞬間、あることに気がついた。
「まさやんさ、大学入学した日に一目惚れしたよね」
「今更、何の話だ?」
「だけど一目惚れ相手には恋人がいて、ショック受けてた。切なそうな目をして、じっと彼を見ていたっけ」
同じようなその目を昨日、叶さんがしていたのだ。熱っぽいのにやるせない、諦めた瞳……もしかしたら叶さんは、誰か好きな人がいるのかもしれない。
「話が全く見えないぞ。けん坊、大丈夫か」
「何から、話したらいいか分からない」
先程、叶さんから来たメール。
『昨日は突然、あんな事してごめん。会社でのストレスを賢一くんにぶつける形となってしまったのは、申し訳なく思っています』
「ねぇまさやん、ストレスで好きでもない人とキス出来たりする?」
「何でストレスのせいで、そんなことをするんだ?」
ワケが分からないと、顔に書いてある。俺も分からない……
「口封じ……もしかしてお前、昨日あの年上に襲われたのか!?」
俺の話をまとめて、深慮したまさやんが言った。
「始めに、手を出したのは俺なんだけどね……」
玄関先で叶さんを抱き締めた。その後思いがけず告白しちゃって、見事口封じされてしまった――
「俺が一方的に、自分の考えを伝えまくったら、そのあまりのうるささに叶さんがキスしてきて、口封じされた……」
「自分の考えって、どんなことを一方的に喋ったんだ?」
訝しげなまさやん。勢いとはいえ告白したのは正直、言いにくい。
「えっと叶さんに対する、日頃の意見といいましょうか、何て言ったらいいんだろ」
「ははん、率直な意見が見事に図星で誤魔化すのに、キスしたんだろうな」
顎に手をあてて、いかにも様になるポーズをとってるまさやん氏。
一方俺はというと、陸に打ち上げられたトド宜しく、テーブルに上半身を乗せていた。
「今夜もお迎え、行くんだろ? 理由を聞いてみればいいじゃないか」
「当の本人はストレスって言ってるんだから、絶対に無理だと思う」
渋い顔した俺は、スマホをまさやんに見えるよう掲げてやった。
「なんだ、この文面。年上の考えることは分からん」
「俺も叶さんが、さっぱり分からない」
今夜は本社にお迎え。しかも向かい側にあるコンビニで待っててとの指定。
どんな顔して、会えばいいんだろう……
ともだちにシェアしよう!