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幸せのひととき4

***  春の暖かい日差しの中、ぼんやりとしていた。  叶さんと多分、恋人同士になったというのに……どうしてなんだろ、この虚しさ。  ――他の人を好きな叶さんごと好きになる――  そう決心したあの日から、1ヶ月経っていた。何度肌を重ねても、恋心は募るばかりで。 (まだ一度も、好きって言ってもらってないんだよな)  確かに気持ちは、割り切れないものだというの分かる。しかも会うと何だか、イジワルばかりされている、恋人の俺っていったい……  それ自体はイヤじゃない、叶さんの笑顔が見られるから。その笑顔を見て、一休さんのオープニングよろしく好き好き言う俺に、分かってるからと叶さんが、すっごく不機嫌になるのだ。  照れているというレベルは、とうに越えている。ムダに空回りしている、俺が悪い。 「本当、カッコ悪すぎるよな」  俺ってこんなに、欲張りな人間だったんだなぁ。叶さんの全部が欲しいなんて――  授業中、窓の外から見える桜を切ない気持ちで眺めながらぼんやりとしているので、叶さん家で課題をすると、叱られてばかりいた。  負のスパイラルから、抜け出せずにいる状態。  自分の身の上にため息をつき、カフェスペースに向かう途中、向こうから歩いてくる短髪で見るからにイケメンな男性が俺と目が合うと、親しげに片手を上げた。  えっと、誰!?  一瞬そう思ったが顔をまじまじと見て、やっと誰なのか気がついた。背中まで伸ばしていた髪をバッサリ切ったせいで、雰囲気がまるで変わっていたから、すぐには分からなかった。 「まさやんっ、髪切ったの?」  イケメンまさやん、短髪でも似合う。実に羨ましい…… 「女装を強要した先輩もいないし、就活もしなきゃならないし、当然の髪型だろ」 「確かに」 「だから、バンドのコンセプトも変えようぜ。ちょうどドラマーとベーシスト、捜さなきゃならないんだからさ」 「まさやん憧れの、骨のあるロック?」 「勿論!」  久しぶりに楽しくできる、まさやんとの会話、ああ和むなぁ。  じーんとしていると、俺の顔を覗きこんでくる。 「けん坊、少し痩せた?」 「いろいろと、気苦労が絶えなくて……」 「念願の年上と、付き合うことになったんだろ?」  まさやんにはメールで、付き合ったことを報告していた。でも詳しくは割愛している。親友に説明するには、ちょっと言いにくい内容だから。 「付き合ってるよ。だけどいろいろ大変なんだ」 「相手が年上だから、若さをこれでもかと吸いとられてるんじゃないのか?」  呆れた顔で俺を見る。まさやんの年上嫌いは、相変わらずだ。 「ここで立ち話も何だから、カフェスペースに行こう。まさやんに、相談したいことがあるしさ……」  こんな相談、まさやんにしか出来ない////  赤面する俺をまさやんは肩を軽く叩いて、カフェスペースに促した。 「あのさまさやん、笑わないで聞いてね」  カフェスペースの一角を陣取り、念を押す俺に渋い顔して頷く。 「年上との恋愛話なんて、本当は聞きたくないけどな」  なぁんて、付け加えてくれた。ああ、ますます言いにくい。 「あのね、叶さんがアノ途中で寝ちゃうんだ……」 「アノ途中って、どの途中だ?」 「エッチの途中……」 「わーってる。だから、どこら辺でだよ?」  相変わらず、言葉の足りない俺の会話を、すぐさま理解しているまさやんに感謝した。  持つべきものは、親友だなぁ。 「うっ……////えっと、愛撫の途中で寝ちゃう。つぅか、爆睡してる」  揺り動かしても、起きない叶さん……幸せそうな顔をして、寝てるもんだから、それ以上手を出せないのだ。 「年上だから、不感症なんじゃないのか」  出たよ、まさやんお得意の年上こき下ろし。 「もしくは、けん坊が悪いかだよな」 「だから夜がスゴいと噂の、まさやんに相談してるんじゃないか」 「俺、年上としたことないから分からない」  そう言って、知らん顔を決め込む。 「まさやん……」 「だって普通は、興奮するもんだろ。それを寝かしつけるとは、俺よりもけん坊の方が、スゴいんじゃないか」  誉められても、嬉しくない。俺は真剣に悩んでるんだ。  キッと涙目で睨むと、しょうがないという顔をして、向かいの席から俺の隣に移動する。  きっと、大きな声で言えない内容なんだろうとワクワクo(^-^)oしていたら―― 「賢一……」  そう言って、俺の頬に両手をかける。  しかもまさやんから甘い花の薫りが漂ってきて、一緒にフェロモンまで、出ているようだ。  まさやん、どうしてそんな風に切ない表情している? なぜだか無性に、ドキドキしているんですけど……  俺の気持ちを知ってか知らずか、頬にあててる左手は後頭部に、右手は耳の後ろに回し込み、右手中指を使って絶妙な力加減で、ツツツッと撫でる。  ひ~っ////、ゾクゾクする。  今度はその手をそのまま、首筋に降下させていくのだが、5本の指全てが、何とも言えない動きをしていた。  俺の後頭部に回していた左手に力を入れ、グイッとまさやんの顔に近づける。  フッと笑うまさやんから、又してもフェロモンが出ているよ。 「分かったか?」 「うん、分かった。まさやんが現在恋をしているのが、手に取るように分かった」  手というより、鼻で感知したな。 「まさやん恋をすると、香水変えるもんね」 「全く、けん坊には敵わないな」 「でもそろそろ、この体勢どうにかしないと、周りの視線がイタイです……」  至近距離で見つめ合ってる俺たちは、かなり怪しいだろう。どちらともなく、パッと離れた。 「まさやんの手技よりも」 「何だ?」  腕組みして、こっちを見る。 「そのフェロモンの出し方、教えて下さい師匠!」  真剣に頼んだのに、何も言わずその場をあとにしたまさやん。俺、どうしたらいいの?

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