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幸せのひととき5

***   「まったく……ホントに講義出てるのか?」  現在叶さん宅、いつものように課題をこなしている俺の傍で、お持ち帰りの仕事をしている。  一服すべく、叶さんが淹れてくれたお茶をすすった。 「出てるよ、ちゃんと」  出てるけど全然頭に入ってないので、実際のところ、出ていないのと同じだけどね。  呆れ顔の叶さんを見ると、やっぱり胸がキュンとする。この人が俺の恋人なんて、未だに信じられないや、ほわーん//// 「また変なコト、考えてるし」 「叶さんには、何でもお見通しだね。嬉しいなぁ」 「留年するよ」 「それもいいかもなぁ。こうやって叶さんに勉強、見てもらえるし」  またまたほわーんとする俺を見て、溜息をつく叶さん。その見る目の白いことこの上ない。 「バカな恋人は持ちたくない、留年したら振ってやるからな」  恋人というフレーズに一瞬歓喜したが、その後の言葉で、一気に現実に戻された。振るのは、勘弁してくれ…… 「振られないように頑張ります、はいっ!」  俄然やる気の上がった俺なのだが、その集中力は蟻んこ並みで――  手を止めると、ついつい叶さんを見てしまう。その視線に気がつくと、左手をグーの形を作って、殴るよと無言で脅してきた。 「ちょっとくらいいいじゃん、減るもんじゃないのに」  ボソッと文句を言うと、振りかぶって殴られた。かなり痛い、本気で殴ったな…… 「こっちだって、仕事してんだ。チラチラ見られたら、落ち着かないし。君は俺の邪魔をしたいのか?」 「邪魔する気なんて、さらさらないよ。だけど、しょうがないじゃないか。叶さんが好きなんだから!」 「……」  溜息ひとつついて、パソコンの画面を見る。華麗に、俺の気持ちをスルー……いつもそうだ、このやり取り。  俺は、こたつむりよろしく、その場にゴロンと寝転がる。モヤモヤ考えてても仕方ない、何か食べよう。  立ちあがりキッチンに向かって、冷蔵庫を開けてみた。ここもいつも通り、何も入ってない。 「叶さん、どうして冷蔵庫にカロリーメイトが入ってるんですか?」  俺の問いかけに返事をするのが面倒なんだろう、華麗に無視を決めこむ。仕方ないなと諦めて次に、冷凍庫を開けてみた。 「叶さん、どうして冷凍庫に、スルメイカが入ってるんですか?」 「……多分この間、会社帰りにコンビニ寄ってワンカップと一緒に、買った物だと思う」 「ワンカップ……」  オヤジか!? 「帰りながら一気呑みしたら酔いが回って、その勢いで入れたんじゃないかな」  空腹に、お酒入れるから酔うんだよ、まったく。  俺は冷凍庫を閉め、自分の財布を手に玄関に行った。 「そこのスーパーで、食材買って来ます。何か食べたい物はないっすか?」  叶さんの後姿に、問いかける。そしたら振り返らずに、 「賢一くんの作る物なら、何でも食べる」  なぁんて、可愛いことを言ってくれた。  この嬉しさを表現せずにはいられないと、堪らずに後ろから抱きしめてみる。えいっ! 「仕事中っ……!」  そんな怒りをスルーして、甘えながら(とか言いつつ恐るおそる)聞いてみる。 「今晩泊ったら、ダメ?」 「何で?」 「明日からバンドメンバーのオーディションするから、しばらく会えなくなるし」  会えなくなるのが寂しい……とは言えない。でもあっさりと承諾してくれたのは奇跡かも! 「俺もこれから、遅くまで残業が続くと思うから会えないと思う」 「じゃあ朝ごはんの食材も、一緒に買って来ます。何を作ろうかなぁ」  離れる前にぎゅっと抱きしめてから、軽い足取りで玄関に向かい、ウキウキしながら、スーパーに駆け出してしまった。  一晩だけどずっと一緒にいられることが、嬉しくて堪らなかった。

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