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遠距離恋愛から4

「今日のまさやんのキレっぷりは、いつもより凄かったなぁ」  でもその原因を作っているのは、俺なんだけどね。だってあと3日したら、叶さんが帰ってくるんだから。  冬休みだってあっちに行ったけど、ラブラブどころか――やれテーブルマナーがなっていないだの、俺の言うことをちゃんと聞けだのと、思った通りの可愛がりようだったのだ。  俺のために教えてくれるの分かるんだけど、相変わらず容赦なさすぎ……  クリスマスで周りは、カップルがそこらへんで熱いキスをしているというのに、叶さんにブッ飛ばされる俺っていったい。  ま、それ以外は、それなりに過ごしたんだけどね←多くは語れない////  でも、ここは日本! テーブルマナーはいらない! だって、お箸の国なのだから。  御機嫌になった俺は、音楽雑誌をゴロゴロ寝転び読みながら、ふふーんと頭の中で作曲をしていた。  いいメロディラインが出来かけた瞬間、 『ピンポンピンポンピンポンピンポン……』  呼び出しベルを長押しして、どこかの誰かが俺を呼ぶ。  折角のメロディが消えたよ、まったく。違う階にお住まいの旦那が自宅を間違って、奥さんを呼んでいるんじゃないか? 前にも、迷惑な時間帯にあったもんな。  よっこらせと立ち上がり、覗き穴を確認せずに鍵を開け、注意しようと扉をあけると、派手な色のコートを着た、青白い顔の男と目が合う。  その男は相変わらず、ベルを長押ししたまま、こっちを見た。  睨まれた衝撃に、思わず扉を閉める。状況が飲み込めなくて、自分の口を右手で押さえた。  ナンデ、ココニイルンダ?  今度は大きく扉を開けて、その男をマジマジとしっかり確認した。本当に叶さん?  よく分からないが、体がガクガクと震えてしまう始末に、情けなさを感じた。 「……恋人が帰って来たんだよ。何か、言うことくらいあるだろう?」  やけに、掠れた声で言う。 「お……お帰りなさいです、叶さん」  途切れ途切れにやっと告げたら、勢いよく俺に飛びついてきた。抱きつかれたその勢いに、ふらついてしまう。  耳元に熱い吐息がかかって、否応なしに体温が上がった―― 「やっと帰って来たよ賢一、ただいま……」  そう言って、ぎゅぅっと体を締めつけてくる、懐かしいぬくもり。  多分、抱きしめ返したら叱られると思ったので、その状態で叶さんを自宅に入れた。しばらくの抱擁の後、やっと解放されてから、玄関前に放置されているであろう、旅行鞄を取りに行く。 「でも叶さん、帰国3日後だって聞いていたから、びっくりしちゃったじゃないか」  リビングに戻ると、ぼーっとした様子で立ちつくしていた。もしや時差ボケ?  心配になって顔を見ると、相変わらず青白い顔色。しかも、口で息をしている状態。 「賢一……寒い……」  さっきと同じように掠れた声で言うと、今度は体をガクガク震わせた。その様子に、すべてを悟りきる。 「叶さん、ダメじゃないか無理したんだろ。早く帰ってこようと思って、24時間中20時間くらい、ぶっ続けで働いたんじゃないの?」 「そこまで、働いちゃいない」 「でもね、もう年なんだから考えて動かないとダメだよ。そうやって、体にガタがくるんだから」 「人を年寄り扱い……何て失礼な……ゴホゴホッ!」  咳き込みだす叶さんに、引き出しから体温計を取り出し、迷うことなく口に突っ込む。そして布団を敷き、旅行鞄の中からパジャマらしき物を何とか引きずり出して、叶さんの手に持たせてあげた。  そのときタイミングよく体温計が鳴ったので、口から抜いて体温を確認したのだが。  ――おいおい、39度ありますけど! 「それ着て、早く寝て下さい。今すぐにっ!」 「そんなに、怒ることないじゃないか」  ぶつくさ言いながら、着替える。 「少しでも早く、会いたかったんだよ。でも賢一が想像しているよりは、無理していないつもりだったのに……あっちで鼻風邪引いて、早めに医者行って薬もらっていたけど、飛行機の中がひどく乾燥していたせいもあったし、こっちは寒いし……ゴホゴホッ!」 「でもね、そんな姿を見たくない。俺に悪態ついて、ブッ飛ばすくらいの元気な叶さんじゃないと、意味がないんだから。もう心配させないでよ、愛してるのにさ」  着替えている叶さんに背を向けながら言うと、なぜか後ろから拳骨が飛んできた。だけど、いつもより痛くない。相当弱っているんだろう。  殴られた頭を撫でながら後ろを振り返ると、心底面白くなさそうな顔して睨んでくる。 「俺が言おうとしたことを、先に言うなよ」 「は?」 「愛してるんだから!」 「叶さん……」  熱でうるんだ瞳で、俺を見上げる叶さんを抱きしめようとしたら、スカッとかわされた。 (あれ、そこは抱きしめ合って、熱いキスを交し合う場面じゃない?)  そんな俺を尻目に、さっさと布団に入って横になる。その背中には『病人に手出し無用』と書いてあるように見えた。    俺としたことが、叶さんが帰ってきたのが相当嬉しくて、妙に舞いあがってる。太平洋で隔てられていた距離が、一気に縮まったのだ。よく頑張ったな。じーん! 「賢一、寒い……」 「じゃあ、毛布足しますね」  押し入れに手をかけよとしたら、布団からまた声がする。しかも片手を伸ばして、俺の足首を掴む叶さんにギョッとするしかない。 「賢一が、人間カイロになってくれたらいい。早く布団に入ってくれ、ゴホゴホッ!」  人間カイロというフレーズにちょっと笑いながら、いそいそ布団に入り、ガクガク震えている、可哀想な叶さんを温めるべく、そっと抱きしめた。 (――よし、殴られない) 「この適度な力加減の、抱きしめ方が好みなんだ……」  掠れた声で言うと、体を抱きしめ返してくれる。  俺としては殴られるかもしれないというのがあるので、恐るおそるという形になっているだけなのが。 「ゴホゴホッ!! 賢一、あったかい」 「俺よりも叶さんの方が熱いですよ。熱がまた、上がったんじゃないですか?」  漆黒のキレイな髪を撫でながら、体の温かさを指摘してみたら。 「賢一にお熱だから、しょうがないだろ」  なぁんて可愛いことを言うなんて。叶さんの素直な具合にちょっと、いやかなり怖い。  会いたさのあまりに、生き霊を見てるんじゃないよな。なぁんて思ってしまう。 「叶さん、お腹すいてないっスか?」 「賢一でお腹いっぱいだから、大丈夫」  ひ~、やっぱり怖い怖い。これは風邪が言わせているんだ、病気なんだ。 「叶さん……」  あまりの嬉しさに、叶さんを力を込めてぎゅっと抱きしめようとしたら、途端に布団から追い出された。  無様に、ゴロゴロ寝室を転がる体―― 「あっつい、苦しい……ゴホゴホッ!」  布団の中で苦しそうに、身悶える。 「俺、氷枕作ってきますね」  一緒に、飲み物を持って行ってあげよう。そういや冷凍庫に、バニラアイスが入ってたな。  そうして俺は、叶さんの看病に明け暮れた。叶さんらしい、ただいまの仕方だなぁ。 

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