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別々のとき3

***  ひとりきりの夜は長い――  仕事が終わり、やっと自宅に帰る。  待っててくれる人は誰もいないのに玄関でつい、ただいまを言ってしまうバカな自分。  真っ暗なリビングを見ながら、はーっと大きな溜め息をつき、気落ちしたまま電気をつけた。  ひとりきりになったら、自炊する気にどうしてもなれなくて、コンビニに寄ったり外食で食事を済ませる毎日――  今夜は疲れたので、そのまま帰宅したけど果たして、家の中に食べ物があったかな。  戸棚をゴソゴソ漁ってみると、賢一が好きなカップラーメンが奥の方から見つかった。お互い、仕事をお持ち帰りしたときに、夜食でよく食べていた物。  それしかなかったので、しょうがなくお湯を入れて3分待ってから、いただきますをし口をつけた。 「あれ……こんな味だったっけ?」  美味しくないわけじゃないけど、何だか味気ない気がする。  食べながら考えた瞬間、胸の奥がきりきりっと痛んだ。理由がいとも簡単に、分かってしまったから。  ぎゅっと目をつぶって、ラーメンをかきこむ。 (賢一のことは、考えないようにしなきゃ、もう忘れなきゃいけない。自分から、さよならと言ったんだから――)  アメリカでもちゃんと、ひとりで生活出来たのに、何やってんだよ。  アメリカでの出来事を思い出したら、一緒に楽しく過ごしたクリスマスが、何故だか頭に浮かんでくる。  マンハッタンで見た夜景を。レストランで食べた食事を。メトロポリタン美術館で、同じ絵を好んだことを……  涙がひとつ、頬をゆっくりとつたっていった。  どうにも自分の感情が制御出来なくなり、手にしていた物をテーブルに置いて移動する。洋服タンスから賢一のトレーナーを引っ張り出した。  いつも淡い色の物を着る賢一。淡い色の中に、必ず赤い色の物を身に付けていた。ベルトだったり、靴ひもだったり。 『だって、叶さん赤が好きでしょ? こうやって身に付けてると、離れていても傍にいる感じがするんだ』  今の賢一は、どうしているんだろう。  涙が止まらず、トレーナーをどんどん濡らしていく。こんなに、泣き虫じゃなかったはずなのに、いつから弱くなってしまったんだろう。 「賢一……」  傍にいないだけで、こんなにも淋しいなんて。  改めて想いの深さを知る、いつも俺を笑わせてくれた愛しい君の笑顔。  ひとりきりの夜は長い、まるで永遠のように――

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