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第2話 俺が狼男の仮装? 悪い冗談だ。
「なんだよ、あいつ。」裕太はサヤカの閉めた扉を睨みつけた。
ミドリは黒板に名前を追加した。
狼男 (大夢)
フランケンシュタイン 大夢 (裕太)
ドラキュラ 裕太 (愛斗)
カッコ書きは推薦された人、という意味だろう。
「立候補が優先だろう。せっかくやるって言ってるんだから、大夢がフランケンやればいいじゃん。そんで、俺がドラキュラで、あと誰か、狼男やればそれでいいはずだ。」裕太がミドリに言う。
「早く決めて、早く帰ろうぜ。」ツヨシが野次を飛ばす。
「サヤカがやればいい。」裕太が言った。「結果がどうでも文句言わないって言ってただろう。サヤカに狼男やらせろよ。」
「女子が狼男?」ミドリが責める口調で言う。「それはちょっと、かわいそう。」
「魔女にしたらどうかな。」そう言ったのはマリだ。「狼男やめて魔女だったら、女子でもよくない?」
「そうね、一人ぐらい女子がいたほうがいいかも。」マリの席の後ろからもそんな声が挙がる。
ミドリは「魔女 サヤカ」と書き足した。
「もうそれでいいよ」――疲れが見えてきた教室はそんな雰囲気に支配されて、ミドリが多数決をとるとあっけなく全員の手が挙がった。カッコ書きの名前は消され、彼らの小学校初のイベント、「ハロウィン仮装大会」のクラス代表者が決まったのだった。
魔女 サヤカ
フランケンシュタイン 大夢
ドラキュラ 裕太
「あの時、やっぱり大夢が狼男やれば良かったのに。」裕太はトランクス1枚で窓辺のソファに座った。
「何年前の話してるんだよ。」大夢はベッドで枕を抱いて、気怠そうに横たわっている。
「10年前。」裕太は高層階特有の嵌め殺しのガラス窓越しに、早朝のビル街を眺めているようだ。
「俺が狼男の仮装? 悪い冗談だ。」大夢はそう言って口の端を上げた。笑っているつもりらしい。
裕太がベッドへと視線を移動させる。「時間、大丈夫か? 会社だろ?」
「ああ。」大夢から苦しげな呻き声がわずかに聞こえてきたかと思えば、毛に覆われた尖った耳は人間のそれへと姿を変え、尻尾は尾てい骨の内側へと引き込まれていった。
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