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第3話 おまえ、本当にドラキュラか?

「それって痛むのか?」裕太が尋ねた。 「いや、別に。ただ、意識的に引っ込めるのには力がいる。」 「大変だな。」 「もう慣れたよ。」大夢は上体を起こす。小柄ながら鍛え上げられた体だ。「それに半日程度のことだ。放っておいても昼には勝手に引っ込む。」 「ハロウィンは関係あるの?」 「ない。関係してるのは月の満ち欠けだけ。」 「そのほうが大変だ。年に1度じゃなくて月に1度は変身タイムが来るってことだろ。」 「一晩だけのことだからね。年がら年中ドラキュラのおまえのほうが……あれ、でも、そんな風に朝日を浴びても平気なんだな? 生き血もすすらないと言うし、おまえ、本当にドラキュラか?」 「夜のほうが活動はしやすいが、血を引いてるのは8分の1だからな。人間の血のほうが濃い。」そう言って笑った時に見える犬歯は、少々鋭すぎるのだが。 「俺だって4分の1だ。」 「早死にか?」 「そうだろうな。祖父は500歳、母親は300歳で死んだ。俺は150ってところか。」 「俺なんざ普通の人間と変わらないだろうよ。せいぜい100まで生きられるかどうか。でも、そのほうがいい。500年も生きて何になる。」 「同感だ。でも愛斗は……。」 「俺が死んだ後も、おまえが死んだ後も、生きていくんだろう。300年、いや500年か。あいつは純血だから。」 「ゾッとするね。」大夢はスーツに着替えると鏡の前に立ち、曲がったネクタイを直した。「愛斗のことはいつ知ったんだ?」 「あいつとは遠縁で、うちは一族の結束が固いから最初から知ってた。けど、一緒に住むようになったのは成人式で再会したのがきっかけ。……成人式と言えば、おまえは来なかったな?」  2年前のその日。大夢は朝から激しい頭痛と嘔吐感に苛まれていたのだった。  それまでも変化の兆しはあった。最初に異変に気付いたのは小学校5年生の時。夢精によって精通を迎えた朝、呆然としながらもパジャマのズボンをずり下げて、パンツを確かめた。驚いたのは下着が汚れていたことではない。尻が妙に重く感じられて後ろに顔を向けたら、そこに、ふさふさとした毛に覆われた、立派な尻尾がぶら下がっていたことに対してだ。 「そんな……。」大夢は文字通り「頭を抱えた」。すると、慣れない手触りの何かに触れた。いや、違う。この手触りなら知っている。慣れないどころではなかった。たった今触った、自分の尻尾と同じ感触だ。

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